盗賊たちに愛されて 第2話

 俺の選んだことじゃない。
 反抗でもしてやろうか?
 
 そんなことを考えていたら、後から誰かに腕をつかまれた。

「えっ?」

 俺は一瞬のことなので、状況が理解できなかった。

「いい匂いでヤンスね~」

 目の前にいたのは、小太りの褐色肌の男だ。

「だ、れ・・・?」

 俺は、そう呟いた。

 一体、何が起こってる?
 俺は、どうして後から男に抱かれてる。
 ただわかることは、魅了の魔法で好かれてしまったということだった。

「俺は、男だ」

 冷静になってから、言い放った。

「わかっているでヤンス。
けど、好きヤンス」

 男が、男に告白!?

「ヒポポパーラメンス、助けてくれ!」

 期待はしてないけど、大声を出した。

 奴は、やっぱり来ない。

「とにかく、一緒に過ごそうでヤンス?
誰もいない場所で?」

「お断りします。
帰ります」

「愛おしいでヤンス。
好きヤンス」

「俺は、そんな気持ち一切ないので、受け取れません」

 男が男に告白とか、信じられない!
 ラノベじゃなくて、これはボーイズラブの展開では?
 これは、抵抗しなくては!
 俺は、男なんだ!
 女と恋愛してこそだから、例外は受け付けない!


 こうして、俺は連れて行かれてしまった。
 どこにかなんて、想像がつくだろう?

 俺は、見知らぬ山賊らしき男に、洞窟へ引き込まれてしまった。

 暗いし、どこに何があるかわからない。
 暗所恐怖症の俺には、幽霊が出てくるとか、襲われるとかを想像させ、身震いするしかなくなる。

「帰りたいんですが・・・」

 俺は、必死に懇願した。

 ヒポポパーラメンスの奴は、どこに行ったんだ?
 俺のこと探してくれているといいんだが・・・。

「無理でヤンス。
オレと、君はこの場所で、共にするしかないんでヤンス」

「そんなあ。
俺はやることがあって、かまっている暇なんてなくて・・・」

「やること?」

「山賊のバンディッツ・エクスポーツの確保です。
指名手配犯なんすよ」

「それなら、オレだが?」

「君が?」

「そうでヤンス。
もしかして、知らないでヤンスか?」

「はい」

 知らない。
 名前は聞いたことあるけど、どのような人とか、外見も何も聞かされていない。

「オレを探してくれてたなんて、嬉しいでヤンス」

「自分の立場がわかっているんですか?
指名手配犯という話をしているんです」

「それでも、オレを探してくれるだけで嬉しいんでヤンス」

「はぁ」

 語尾に「ヤンス」をつけるバンディッツ・エクスポーツは得体のしれない奴だ。

「どうして山賊をやっているのか知らないけど、これ以上の狼藉を重ねるようなら・・・」

「ようなら?」

「何でもないです」

 相手の方が強いだろうと勘付き、恐怖で怖気づいてしまった。
 ヒポポパーラメンス、早く助けに来て~。

 こんなところ、自力でもいいから、抜け出したる!

 力ずくで強制的に連れて行かれたけれど、物理以外の方法がある。

 魅了の魔法を、うまく使った方が、評価成績はいいかもしれないけど、今はそんなこと言ってられない。

 考えろ・・・。
 考えるんだ・・・。

「俺・・・トイレに行きたいんですが、いいですか?」

 何としてでも、ヒポポパーラメンスと合流しないと!

「なら、オレもついて行こうか?」

「え?」

「1人じゃ、心細いのでは?」

 女子か!
 俺は、女子のような扱いか!?
 
 俺は男だし、トイレぐらいは、付き添わなくてもいいって!
 
「俺、トイレの場所がわかればいいので・・・」

「トイレの場所とか、やり方とか一般庶民にはわからないでヤンス。
ここは、山賊流のやり方があるでヤンス」

「山賊流・・・?」

 俺は、危機感しかない。
 これは、明らかに女子で言う、一緒に行こうという流れだ。

 ヒポポパーラメンスに、心の中で必死に助けを求めた。

 ヒポポパーラメンス、助けて・・・。
 ヒポポパーラメンス、助けて・・・。
 俺は、ピンチなんだ。

《大丈夫か?》

 頭の中で、声がした。

《もしかして、ヒポポパーラメンス?》

《そうだ》

 ヒポポパーラメンスにも、3つの魔法があり、その中のひとつが、テレパシーだ。
 直接口にしなくても、心の中だけで会話できる。
 だけど、それには条件があり、それは俺がヒポポパーラメンスを相棒として契約を結んでいることと、相方である俺が何かしらの危機的状況にさらされていることと、ヒポポパーラメンスと俺が同じエリアにいることだ。
 ひとつでも当てはまらないと、テレパシーは使えない。

 テレパシーができるということは、そんな遠くにいないはずだ。

《今すぐ、ワープでこっち来てくれないか?》

 ヒポポパーラメンスのもうひとつの魔法は、「ワープ」という名前の瞬間移動だ。
 正式には、ワープというより、瞬間移動なんだが・・・。
 山賊の山へ来れたのは、ヒポポパーラメンスの魔法だが、発動には条件があり、いつでも使えるわけじゃないし、どこにでも行けるわけじゃない。

 トゥリッツさんひとりだけでやったことではないけど、トゥリッツさんは何を考えてんだか?

〈場所がわかれば。
今、どこにおる?〉

〈多分、山賊の洞窟。
今、山賊のバンディッツ・エクスポーツに捕まってるから〉

〈なら、なんとなく察しがつくな〉

「おーい、サランよ、おるかー?」

 暗闇だから、見えないけど、ヒポポパーラメンスの声が聞こえた。

「いるよー」

 俺は、迷うことなく返事をした。