「ただいま・・・」
あたしは、つぶやくように挨拶した。
あたしは、気まずい中で家に帰ってきた。
ここで、あたしは目撃してしまった。
ジーオ伯父様と、トゥリーメーステレがキスするところを・・・。
ちょっと前のあたしなら、ショックだったかもしれない。
だけど、あたしはアミーラの説得で決心ができたから・・・。
あたしは、ジーオ伯父様を束縛しないって。
「・・・。
さっきは、ごめんだったのですわ。
それじゃあ、部屋に戻るのですわよ」
「待ってくれ、マル。
わしは、彼女ができて、それで婚約もした。
そのことを、いつかマルに報告するのを忘れて・・・」
「じゃあ、おめでとうなのですわ」
あたしは、笑顔で返した。
「わかってくれたか、マル。
それで、わしが彼女を守るって決めたんだ。
だから、同棲していいか?」
「ジーオ伯父様・・・。
伯父さんは、大人なのだから、許可なんているのですか?」
あたしは、あの人を「ジーオ伯父様」と呼びたくない。
せめて、他人に見えるようにふるまいたい。
「家族全員の同意を得たかったんだ」
あたしの予感は、当たっていた。
伯父さんと、トゥリーメーステレは付き合って、同棲する。
そこで、結婚までいきつきそうだ。
「どうぞ、幸せに」
笑顔で返したあたしは、部屋に戻った。
あたしは、伯父さんを恋愛対象として見ていたつもりだったけれど、あれは違ったんだ。
あたしは、伯父さんを本気で好きなわけではなかったし、父親のようでいて、本当の父親ではなかった。
だけど、これでよかったんだ。
あたしも、伯父さんもお互いに解放された。
これでいいんだ。
あたしには、まだ心の拠り所はある。
あたしは、叔父様がいる。
ディーオ叔父様だ。
ジーオ伯父さんとは、血縁関係はない。
さっそく、ディーオ叔父様のところに駆けつけよう。
「マルディ、今何を考えてる?」
アミーラちゃまは、あたしに質問を投げかけた。
「さあ、何でしょうね」
あたしは、にやついた。
「笑ったり、落ち込んだり、忙しい奴だな」
「あたしは、いつでも忙しいのですわよ?
お望みなら、泣いたり、怒ったりもした方がいいのですか?」
「いいって」
「あたしには、伯父さんが離れたとしても、ディーオ叔父様がいるのですわ。
ディーオ叔父様は、まだ若いし、結婚まで考えていないのですわよ」
「お主は、執着から抜け出そうとか、考えないのか?」
「あたしは、まだ大人になんかなれないのですわ」
「にゃー」
どこからか、黒猫が現れた。
ここはあたしの部屋のはずで、窓も閉まっていて、扉も開いてないのに、どこから入ってきているんだろう?
そして、その猫が話し始めた。
「解決要望です」
「ミストロー!」
あたしたちに事件を知らせる猫たちがいて、名前はミストロー、ミステリーオ、グハイニース、ミステー、シェンミー、ミストリーの六匹がいる。
今回の担当は、ミストローみたいだ。
「被害者トゥリメーステレ。
第三者ジーオ。
犯人は不明で、謎の集団と予想される。
依頼目的は、クウォーターエルフの末路を解決する。
任務達成の条件は、最強な伯父さんとの協力。
以上」
ミストローが淡々と話した。
「それだけなのですか?
情報が少ないのですわね」
「こらっ!」
「はいはい、わかったのですわ。
アミーラちゃま」
「何がわかったんだ?
本当にわかっているのか?」
「何をなのですか?」
「ほら、わかってない」
あたしは、なんだか悔しい気持ちになった。
「にゃー」
ミストローは、その場を去った。
どこからともなく、姿を消した。
ミストローたち、この猫は一体何者なのだろう?
「さあ、本題に入ろうか。
この発言をするお主は、探偵助手に向いてないとみなし、今日からは、お主の叔父であるディーオが探偵助手に任命されることになった」
「そんな、いきなりなのですか!?」
「前々から話し合っていた。
ただ、マレディに報告も、相談もしていないだけで」
「そんな、勝手に・・・!?
あたしは、あたしは、これからどうなるのですか?」
あたしは、動揺を隠せずにいた。
あたしは、探偵助手失格なのかもしれないだなんて。
「転勤だ」
「転勤って?」
「転勤は、転勤だ」
「どこになのですか?」
「決まっておる。
日本だ」
「日本なのですか?
どうやって?
飛行機に乗るのですか?」
「飛行機に乗る以外、何がある?
泳ぐのか?
それとも、船か?」
「どちらも、無理なのですわよ」
「相性からして、ディーオの方がいいじゃないか、と前々から思っていたことだ。
わかってくれるか?」
「わからないのですわ。
わかりたくないのですわよ!」
いやだ。
アミーラちゃまに見捨てられるくらいなら、ディーオ叔父様を裏切り者とみなす。
「ということだ。
マレディ、アミーラもいろいろと我慢してきたんだ」
声のした方を見ると、ディーオ叔父様が扉を開けていた。
「ディーオ叔父様・・・?」
「吾輩とジーオさんはここに残るけど、あとはみんなで飛行機に向かう。
これでいいか?」
「よくないのですわよ!」
どうして?
どうしてなの?
あたしの何がいけないの?
誰か、教えて・・・。