眠り嬢マレディジオンは不思議な探偵助手 第3話

 転勤。
 あたしは、引っ越すのか。
 新しい環境に馴染めるかもわからないし、日本語に自信もない。
 日本語を間違えて話してしまうかもしれない。
 叔母や、いとこたちも一緒だけど、それで不安がぬぐえるわけじゃない。

 あたしは、アミーラちゃまや、ジーオ伯父さん、ディーオ叔父様を振り回してばかりいた。
 あたしは、いつまでも子供のままでいたいと思っていた。
 だけど、いつまでもそんなわけにはいかなかった。
 いつかは、大人にならなきゃいけない。
 そんなことを、あたしはわかっていなかった。

 

 飛行機でついた場所。

 あたしは、新しい環境に馴染めるのだろうか?

 

 あたしは探偵になるのかな?

 それとも、助手?

 

 不安な中、日本に来てから、最悪の女子グループにも会うようになってしまった。
 あたしとは、わかり合えない
探偵事務所の協力者。

 本名は知らないけど、呼び名はつけた。
 
 ライバル女。
 あたしの従兄が好きなために、なにかとあたしにいちゃもんをつけてくる。
 だけど、いじめ?と呼ぶようなことはしない正々堂々タイプ。
 身長百六十九センチくらいで、Jカップと言う見たことも聞いたこともなかった巨乳。

 いじわる女。
 あたしの従弟が好きで、嫌がらせをよく受けている。
 身長百六十八センチくらいのIカップというあり得ない巨乳。

 ヤンデレ女。
 とにかく病んでる。
 身長百六十七センチくらい。
 Hカップ

 ツンデレ女。
 素直にならない。
 身長百六十六センチくらい。
 Gカップ

 ギャル女。
 派手な見た目。
 身長は百六十五センチくらい。
 Fカップ

 清楚女。
 おっとり、爽やかファッション。
 身長は百六十四センチくらい。
 Eカップ

 クール女。
 ほとんど無表情。
 身長は百六十三センチくらい。
 Dカップ

 あたしは、背の高い巨乳たちに、威圧されている。
 従弟も、従兄も、好みのタイプなんて知らないけど、きっと巨乳の方が好みかも・・・?
 その根拠は、というとない。

 その上、パートナーになったのは、紫の魔物と牛姫とか、馬嬢って叔母に紹介されたけど、どうゆうこと?

 紫の魔物。
 見た目からして、受け付けない。
 叔母曰く「苦手なタイプとも、仕事をするのも必要」とのこと。

 牛姫。
 牛のお姫様。。

 馬嬢。
 馬のお嬢様。
 
 あたしに、本当の意味での味方なんていなかった。
 いいもん。
 あたしは、この家族とは何の血の繋がりもないし、養子だから。
 だけど、近くに義理の両親や義きょうだいがいないことは気がかりだった。

 

 あたしの味方は、どこ・・・?

 そんな気持ちで、外を歩いていたら、ポスターが見つかった。

 指名手配犯のポスターだ。

 

 そこで見つかったのは、トゥリメーステレ、ジーオ伯父さん、ディーオ叔父様、アミーラちゃまだった。

 

 これって・・・!?

 

 

 クウォーターエルフという研究所からの逃亡者に加担した罪と書かれていた。

 

 あたしは、その場に座り込んだ。

 どうゆうこと?

 

 あたしは、何故この人たちを置いて日本まで来たの?

 来たんじゃない。

 あたしや、その家族を守るために、自分のことを犠牲にしたのかもしれない。

 

 

 あたしは家に帰るなり、叔母に問い詰めることにした。

 

「どうゆうことなのですか?
ジーア叔母様」

 ジーア叔母様は、ジーオ伯父さんの妹に当たる。


「帰ってくるなり、急にどうしたのさ?」

「どうしたも、こうしたもないのですわよ。
あの指名手配犯のポスター、明らかにジーオ伯父さんと、ディーオ叔父様じゃないのですか?」

「話をはしょりすぎよ。
ちなみに、国外では警察に追われる身なのよ」

「警察・・・?」

 話がついていけない。
 警察なんて、どうゆうこと?
 

「トゥリメーステレを逃がしたことがいけなかった。
組織が、彼女を取り戻そうとして、それを阻止したのが、誰なのか言うまでもないだろう。
これ以上のことは、語りたくない。
ショックだから・・・。
他の罪も、なすりつけられて・・・」

 ジーア叔母様は、涙を流した。
 普段、泣くことがないジーア叔母様が・・・。

 あたしは、追求する気になれなくなっていた。

 後日、風の噂で聞いた話によると、トゥリメーステレ、ジーオ伯父さん、ディーオ叔父様は死刑になったと聞いた。

 
 あたしは、わがままばっかり・・・。
 ジーオ伯父さんや、ディーオ叔父様に申し訳ないことをしたことに後悔した。
 せめて、最後ぐらいはいい思い出作らせてあげたかった。

 

 ここで、あたしはある決意をした。
 あたしは、立ち向かわないと。
 誰も何も悪いことなんてしていないし、家族ぐらいは信じられるようにしたい。
 あたしにできることは、きっとあの理不尽から救ってあげることだと思ったから。
 

眠り嬢マレディジオンは不思議な探偵助手 第2話

「ただいま・・・」
 あたしは、つぶやくように挨拶した。

 あたしは、気まずい中で家に帰ってきた。
 ここで、あたしは目撃してしまった。

 ジーオ伯父様と、トゥリーメーステレがキスするところを・・・。
 
 ちょっと前のあたしなら、ショックだったかもしれない。
 だけど、あたしはアミーラの説得で決心ができたから・・・。

 あたしは、ジーオ伯父様を束縛しないって。

「・・・。
さっきは、ごめんだったのですわ。
それじゃあ、部屋に戻るのですわよ」

「待ってくれ、マル。
わしは、彼女ができて、それで婚約もした。
そのことを、いつかマルに報告するのを忘れて・・・」

「じゃあ、おめでとうなのですわ」

 あたしは、笑顔で返した。

「わかってくれたか、マル。
それで、わしが彼女を守るって決めたんだ。
だから、同棲していいか?」

ジーオ伯父様・・・。
伯父さんは、大人なのだから、許可なんているのですか?」

 あたしは、あの人を「ジーオ伯父様」と呼びたくない。
 せめて、他人に見えるようにふるまいたい。

「家族全員の同意を得たかったんだ」

 あたしの予感は、当たっていた。
 伯父さんと、トゥリーメーステレは付き合って、同棲する。
 そこで、結婚までいきつきそうだ。

「どうぞ、幸せに」

 笑顔で返したあたしは、部屋に戻った。
 
 あたしは、伯父さんを恋愛対象として見ていたつもりだったけれど、あれは違ったんだ。
 あたしは、伯父さんを本気で好きなわけではなかったし、父親のようでいて、本当の父親ではなかった。
 だけど、これでよかったんだ。
 あたしも、伯父さんもお互いに解放された。
 これでいいんだ。

 

 あたしには、まだ心の拠り所はある。
 あたしは、叔父様がいる。
 ディーオ叔父様だ。
 ジーオ伯父さんとは、血縁関係はない。

 さっそく、ディーオ叔父様のところに駆けつけよう。

 

「マルディ、今何を考えてる?」

 アミーラちゃまは、あたしに質問を投げかけた。

「さあ、何でしょうね」

 あたしは、にやついた。

「笑ったり、落ち込んだり、忙しい奴だな」

「あたしは、いつでも忙しいのですわよ?
お望みなら、泣いたり、怒ったりもした方がいいのですか?」


「いいって」

「あたしには、伯父さんが離れたとしても、ディーオ叔父様がいるのですわ。
ディーオ叔父様は、まだ若いし、結婚まで考えていないのですわよ」

「お主は、執着から抜け出そうとか、考えないのか?」

「あたしは、まだ大人になんかなれないのですわ」

 

「にゃー」

 どこからか、黒猫が現れた。
 ここはあたしの部屋のはずで、窓も閉まっていて、扉も開いてないのに、どこから入ってきているんだろう?
 そして、その猫が話し始めた。

「解決要望です」

「ミストロー!」

 あたしたちに事件を知らせる猫たちがいて、名前はミストロー、ミステリーオ、グハイニース、ミステー、シェンミー、ミストリーの六匹がいる。
 今回の担当は、ミストローみたいだ。

「被害者トゥリメーステレ。
三者ジーオ。
犯人は不明で、謎の集団と予想される。
依頼目的は、クウォーターエルフの末路を解決する。
任務達成の条件は、最強な伯父さんとの協力。
以上」

 ミストローが淡々と話した。

「それだけなのですか?
情報が少ないのですわね」

「こらっ!」

「はいはい、わかったのですわ。
アミーラちゃま」

「何がわかったんだ?
本当にわかっているのか?」

「何をなのですか?」

「ほら、わかってない」

 あたしは、なんだか悔しい気持ちになった。

「にゃー」

 ミストローは、その場を去った。
 どこからともなく、姿を消した。
 
 ミストローたち、この猫は一体何者なのだろう?

 

「さあ、本題に入ろうか。
この発言をするお主は、探偵助手に向いてないとみなし、今日からは、お主の叔父であるディーオが探偵助手に任命されることになった」

「そんな、いきなりなのですか!?」

「前々から話し合っていた。
ただ、マレディに報告も、相談もしていないだけで」

「そんな、勝手に・・・!?
あたしは、あたしは、これからどうなるのですか?」

 あたしは、動揺を隠せずにいた。
 あたしは、探偵助手失格なのかもしれないだなんて。

「転勤だ」

「転勤って?」

「転勤は、転勤だ」

「どこになのですか?」

「決まっておる。
日本だ」

「日本なのですか?
どうやって?
飛行機に乗るのですか?」

「飛行機に乗る以外、何がある?
泳ぐのか?
それとも、船か?」


「どちらも、無理なのですわよ」

「相性からして、ディーオの方がいいじゃないか、と前々から思っていたことだ。
わかってくれるか?」

「わからないのですわ。
わかりたくないのですわよ!」

 いやだ。
 アミーラちゃまに見捨てられるくらいなら、ディーオ叔父様を裏切り者とみなす。

「ということだ。
マレディ、アミーラもいろいろと我慢してきたんだ」

 声のした方を見ると、ディーオ叔父様が扉を開けていた。

「ディーオ叔父様・・・?」

「吾輩とジーオさんはここに残るけど、あとはみんなで飛行機に向かう。
これでいいか?」

「よくないのですわよ!」

 どうして?
 どうしてなの?
 あたしの何がいけないの?
 誰か、教えて・・・。

眠り嬢マレディジオンは不思議な探偵助手 第1話

「はあ、疲れたのですわ・・・」

 あたしは、ふかふかのベッドに横たわった。

「起きるのだ、これから、トゥリメーステレを守るんだ」

「トゥリメーステレ・・・?」

 彼女は、あたしが研究所から助けた女の子だ。
 紫色の髪をもつ、クウォーターエルフ。
 尖った耳はない。

「ヒロイン救出なのですか?
そしたら、あたしは王子様なのですか?」

「お主は、何を思い浮かべている?」

乙女ゲームなのですわよ」

「そうゆうことなら、好きにせい」

 なぜか、アミーラちゃまは呆れている様子だった。
 
 あたしは、トゥリメーステレちゃまが嫌。
 助けなきゃよかったって思うくらい。
 実はあたしには従弟と従兄と叔父と伯父がいて、その中であたしの伯父に猛アプローチ。
 あたしの伯父をとられたら、親戚になっちゃうってこと?
 そんなの許せない。
 それだけは、それだけでも阻止したい。

 

 あたしは叔母と伯父と叔父と従兄と従弟と従姉と従妹の八人暮らしだ。

 あたしの伯父は、ジーオ。
 ジーオ伯父様は、とにかく甘い。
 そこら辺に売ってるスイーツよりも、甘いかもしれない。

「やあ、マル」

 そんなこと考えたら、ジーオ伯父様が帰ってきた。

ジーオ伯父様、香水の匂いが・・・。
もしかして、ニンニクなのですか?」

「そんなわけないだろう。
さっき、トゥリメーステレとデートしてたんだ」

 やっぱり・・・。
 嫌な予感は、当たっていた。

「そもそも、何故にそをんな名前をつけたのですか?」

 トゥリメーステレは、最初は名前なんてなかった。
 そんなところに、ジーオ伯父様が、つけたんだ。

「カッコイイだろ?
それに、あの子はエルフとのクウォーターだから、イタリア語で・・・。
イタリア語だったけ?」

 

 あたしは、トゥリメーステレに嫉妬してる。
 あたしのジーオ伯父様を、両親がいないあたしには、父親のような存在。
 それを、トゥリメーステレだけのものになるんじゃないかって考えてしまうと・・・。

 やっぱり、許せない。

「あら、マルディちゃん?
いたの?」

 トゥリメーステレが、どこからか現れた。

「トゥリメーステレ・・・なのですか?」

「はい」

ジーオ伯父様の後ろにたのですか?」

「はい」

「隠れていたのですか?」

「いいえ」

 嫉妬心、丸だしなのは自分でもわかっている。
 だけど、感情をうまくコントロールできそうにない。

「本当になのですか?」

「疑うの?」

「ちょっとだけ、ちょっとだけ、聞いただけなのですわよ」

「こら、こら、マル。
お客様には、挨拶だろ?」

ジーオ伯父様は、何もわかってないのですわ!
何も・・・」

 こうして、あたしは家を飛び出した。

「マルディ!?」

 アミーラちゃまが、あたしについていった。

 

 行く当てもなく、走っていくあたしに、アミーラちゃまはどこまでもついていく。
 まるで、どこまでも走ってまで、追いつこうとしているかのように・・・。

「急に、どうしたんだ?
全然、お主らしくなかったぞ?」

 この一言で、あたしはその場で足を止めた。

「あたしらしさって、何なのですか?」

「マルディ?」

「いつも、我慢していることがあたしらしさなのですか?
大丈夫じゃないのに、平気なふりして、笑顔でいることがなのですか?
ジーオ伯父様の前だからこそ、頑張って平常心を保とうとしたのですわよ・・・。
でも、だめだったのですわ・・・。
だめだったのですわよ・・・。

あたしは、あたしをだませない!」

 あたしは、泣くことすらもできずにいる。
 泣いたら、楽になるのかな?
 もっと、むなしくなるのかな?

「アミーラちゃま、あたしの気持ちをわかってくれるのですか?
ジーオ伯父様はあたしを一番にかわいがってくれたのですわ。
だけど、これで終わっちゃうかもしれないのですわよ・・・」

 アミーラちゃまは、何か考え込んでいた。
 しばらく沈黙が続いてから、話し始めた。

「マルディは、どうしたい?」

「え?」

「マルディは、ジーオがいつかいなくなったりすると思うのかい?」

「結婚したり、彼女ができて同棲とかすれば、いなくなりそうで・・・」

 ジーオ伯父様は、彼女も作ってこなかったし、結婚もしないで甥や姪のことをかわいがってくれた。
 それが、どういった意味かなんてあたしにはわからない。
 だけど、その関係が終わってしまうのが嫌でしょうがない。
 ジーオ伯父様は、あたしだけのジーオ伯父様になってほしかった。

「お主はM、どうしてジーオを縛り付けるんだい?」

「あたしは、縛ってなんか・・・。
縄とか用意してないし・・・」

「そういう意味じゃなくて、ジーオも感情を持っている。
旅立ちたい時もある。
そんな時も、姪っ子であるお主を、気にかけてくれた。
だけど、マレディだっていつまでも幼稚なままでいていいわけじゃない。
マレディは、マレディで自立しよう・・・」

「自立なのですか・・・?
あたしが・・・?」

 そんなことは、考えたこともなかった。
 考えるわけがなかった。
 ただ、ジーオ伯父様に甘えることだけを、生きがいとしていたあたしに。

「さ、帰ろ。
任務は、トゥリーメーステレを守ることじゃないのかい?」

 ここで、あたしはふっくれ面になった。

「また、その話なのですか?
懲りないのですわね」

眠り嬢マレディジオンは不思議な探偵助手 プロローグ

 ここは、とある実験施設。
 今年で、十三歳になると聞いた。
 
 幼稚園や、小学校なんて行ったことがなく、最後に外の世界にいたのは保育園の頃で、確か五、六歳だったために、勉強とかは研究所の中で教わった。

 簡単な算数や国語は、できる。

 

 そんな子に、手を差し伸べたんだ。
 それは、これから守らなくはならない存在だった。

「君、名前はなんて言うのですか?」

「わかんない・・・」

「どうして?」

「実験体だから、名前なんてないから・・・」

 

「あたしは、マルディジオンなのですわ。
君を、助けに来たのですわよ」

 あたしは、名前を名乗れない少女に、自己紹介をした。

 あたしは、パンダのパーカーに、黒のデニムキュロットをはいて、厚底ニーハイブーツを履いている。
 緑の髪を持つ。
 あたしは、魔女でもあり、吸血鬼でもある。
 
 三分の一はヴァンピーア《吸血鬼》で、三分の一はストレーガ《魔女》。
 あとは、秘密。

 肩には、「アーミン」と言うオコジョの姿をした妖精?らしき存在をパートナーとしている。

 

「助けに・・・?」

 女の子は、信じられないという表情で、首をかしげている。

「君は、監禁されているのですわ」

 すぐに受け入れてくれるなんて、思ってはない。
 だけど、あたしがやらなくてはならないことは決まっていて、この子を、この子だけでも、救出してあげることだと思った。
 これだけは、これだけでも、果たそうと思った。

「マルディ、この子を抱きかかえるのだ」

「はいなのですわ、アミーラちゃま」

「オコジョがしゃべった!?」

 女の子は、驚いていた。
 
 本物のオコジョではないために、アミーラは人間の言葉で話せる。
 そして、アミーラちゃまはあたしを「マルディ」と呼ぶ。
 確かに、マルディジオンは、長ったらしくて、ほとんどの人が呼ばなくて、「マルディ」とか「マル」とかの方が多いかも。

 身長一四六センチという小さな体のあたしは、自分より少しだけ大きい女の子を、抱きかかえた。

「お姫様だっこ・・・?」

「詳しい説明は、後なのですわ。
アミーラちゃま、次はどうしたらいいのですか?」

 あたしは探偵助手で、アミーラちゃまが探偵。
 ということは、やることはアミーラの指示に従うだけとなる。

 

「いたぞ、侵入者だ!」

「どこから、入ってきた?」

 白衣を着た人たちが、どこからか入ってきて、あたしたちはすぐさま囲まれた。

「侵入者が来てるのですか?」

 あたしは、状況がよくわからないでいた。

「マルディ、きっとそれは、おいらたちを指してると思うぞ?」

「それで?」

「それでって?」

「この状況に、出くわしたらどうしたらいいのですか?」

「戦う」

「わかったのですわ」

 あたしは女の子をおろしてから、槍を用意した。

 相手は、せいぜい数十人くらい。
 このくらいは、あたしの敵じゃない。

「構えろ!」

 白衣を着た人たちが、銃を向けてきて撃ってきたけれど、私は槍の刃先だけで弾丸をいくつか壊してきた。
 なぜか、白衣を着た人たちの顔が青ざめていた。

「これで、終わりなのですか?
もっと、運動がしたいのですわよ・・・」

「いっそ、研究所そのものを壊すのは、どうだ?」

 アミーラちゃまが、あたしに提案をした。

「あたしも、そう思っていたのですわ。
この建物が嫌で嫌でしょうがなかったのですわよ」

 あたしは槍で壁を破壊した。
 ジャンプして、天井も壊した。
 そんなことを繰り返しているうちに、研究所は壊れた。

 

 あたしと、アミーラちゃまと女の子は、なんとか脱出できた。

 なんとかと言っても、崩れていくコンクリートを避けながらだから、体力的にはすごく疲れてくるかも。

「危ないでないか!」

「今、言うのですか?」

「巻き込まれて、下敷きになったら、どうする気だったんだ!?」

 どうしてかわからないけど、アミーラちゃまが怒っていた。

「それを配慮してまでの指示がなかったから、思い切っりやっていいのかと思ったのですわよ」

「言わなくても、考えるのでは・・・?」

「アミーラちゃまの普通を、あたしに押し付けないでほしいなのですわよ」

「どうして、ここがわかったの・・・?」

 女の子に、質問をされた。

「こんな密室の空間を、どうやって見つけられたの?」

「それは・・・」

 あたしは、口ごもっていた。
 本当のことを言っていいのだろうか?
 言っても、信じてもらえるのだろうか?

「彼女は、探偵助手。
事件の内容を、夢で見たんだ」

「へ?」

 女の子は、不思議そうな表情をしていた。

 

 あたしは、夢で事件を見ることができる。
 不思議な異能力で、それは人間だった頃からあった。

 夢で犯人の動機、被害者のことや、起こる事件すべて・・・。

 だから、夢で女の子が誘拐され、研究所に閉じ込められ、実験にされることもわかった。
 実行犯も、黒幕も知ってる。
 ただ、それだけのことだった。

「アミーラちゃま、これ以上のことは、言わなくてもいいのですわよ。
事件は、謎は、解決したのですわ。
犯人も、見つけれたのですわよ。
それで、いいんじゃないのですか?」

「マレディ・・・」

「それに助手としては、手を貸しただけなのですわよ。
本当に行動したのは、探偵であるアミーラちゃま、すべてアミーラちゃまのおかげなのですわ」

 あたしは、自分の能力のおかげなんて思わない。

 

盗賊たちに愛されて 第5話

 ここで、レコナイーズとヒポポパーラメンスの喧嘩する声が聞こえた。

「あたしは、山賊退治をしたいのですわっ!」

「それが、良くないという話だ!
この他人を冷ややかに挑発するところが、山賊退治に採用できんところ。
海賊退治か、空賊退治にしておくんだ」

「あたしは海賊退治や空賊退治の成績は、上から12位しかなくても、山賊退治だけ11位だったのですわよ!」

 ここで、トゥリッツさんが口をはさんだ。
 
「どうしたんだ?」

「あたしは山賊退治になりたいのに、ヒポポパーラメンスがだめって・・・」

「事情は把握してないが、ヒポポパーラメンスが言うなら・・・」

 トゥリッツさんは、考えこみながら話した。

「優秀な君には納得のできないアドバイスになるかもしれないが、山賊退治を候補から外して、宇宙賊を視野に入れるのは、どうか?」

 それを聞いたレコナイーズは、不思議そうな表情をしていた。

「宇宙賊なのですか?」

 宇宙賊とは、エリートだけがなれる宇宙専門の盗賊退治屋。
 
 レコナイーズは、そこまで優秀だったんだ。

「レコナイーズは、我ら研究員の間でも、宇宙賊退治は上位9位となる。
番号はもらえないが、他の退治屋よりも、もっと優秀な成績を残せる。
悪くない話では、ないか?」

「いいのです。
賛成なのですわ」

「その代わり、山賊退治からは採用されなくなるが、レコナイーズならきっと優位に立てると信じてるぞ」

「了解なのです。
では、試験をシーウ様と一緒に受けて来るのですわ」

 こうして、レコナイーズは笑顔で走り去った。

「本題に入るのだが、サランはヒポポパーラメンスとペアで、任務を行う」

 トゥリッツさんが言う、ヒポポパーラメンスと言うカバのぬいぐるみは、初対面のはずだが、なぜか知っている感じがした。
 まるで、夢で見たことが本当の出来事かのように・・・。

「妾は、その提案を辞退させてもらおう」

「何故?」

 トゥリッツさんが眉をひそめた。

「妾に、サランの護衛は務まらん。
そこで、考えた。
安寧秩序、意気消沈、一罰百戒の魔法を持つ方を相棒にするのは、どうか?」

「どうしたんだ、ヒポポパーラメンス。
話し合いにより、君がサランとの魔法相性がいいと言う結果となり、任命したのだ」

 トゥリッツさんはそう言うけど、できれば俺としても他のやつにしてほしい。
 なぜなら、俺はカバが苦手だからだ。
 本物のカバなんて、見てられない。
 それは、俺が漆器《しっき》覇業《はぎょう》として生きていた時からそうだった。

 だから、カバ以外の生物にしてほしくて仕方がない。

 だから、俺はここで願った。
 カバ以外の生物が、相棒になることを。

「理由を聞かせてくれないか?」

「妾の魔法を知っていれば、想像がつくだろう?
ワープ、テレパシー、ループ。
この3つの魔法のみで、妾がサランのためにできることはなかった。
サランの身に、どんな危険があっても、助けられん。
そこで、考えた。
妾の次に数値がいい方を・・・」

「彼が使えるのは、安寧秩序、意気消沈、一罰百戒。
その言葉の意味、わかってるな?」

 俺は四字熟語には詳しくないけど、安寧秩序が平和的な意味で、意気消沈が落ち込むことで、一罰百戒が罰による成敗だっけ?
 そんな意味だったような?

「成績は落ちたとしても、サランの身の安全が優先事項。
妾は、傍観者にしかならん。
ならば、サラン、相棒を紹介したるが、どうだ?」

 ヒポポパーラメンスが俺に問いかけたけど、そんなことはカバから開放されるためには、迷うことじゃない。

「俺に、君たちが言う相棒を見せてくれないか?」

 俺は、トゥリッツさんとヒポポパーラメンスに案内された。
 誰が相棒になるんだろう?

 そして、俺は宙に浮くクジラのぬいぐるみを見た。


「彼の名は、ウェイオ」

 トゥリッツさんが、俺に目を向けながら話した。

「ウェイオ?」

「君の相棒だ。
君との魔法相性は、ヒポポパーラメンスの次にいいとされる」

「ワイをお呼びか?」

 ウェイオと言うクジラのぬいぐるみは、俺たちを見た。

「そして、今回はレコナイーズが山賊退治から外れたために、別の女性を任務に行かせる。
彼女は確か、一網打尽と隠忍自重、雲散霧消という魔法を持つ 

「俺、四字熟語詳しくない・・・」

「後に、彼女と合流することになるか、その時に魔法性質がわかるだろう。
彼女の相棒は、温厚篤実と夏炉冬扇と外柔内剛の魔法だ」

「またしても、四字熟語・・・」

 説明されても、俺はトゥリッツさんに言われてること、半分以上は理解してないと思う。

「ウェイオ、彼はサランだ。
これから、任務に同行だ」

「確か、ヒポポパーラメンスが一緒と聞いたが?」

「彼は、訳ありで辞退した。
代わりに、二番目に優秀なウェイオを選んだ」

「ヒポポパーラメンスは、こんないい機会を何故に自ら逃した?」

 ウェイオは、トゥリッツさんの次はヒポポパーラメンスを見ながら話した。

「それは妾のワープ、テレパシー、ループの魔法から詳しい察してほしい。
妾は、戦闘力もなく、無能なのだ」

 この説明だけで、事情の把握は難しいのでは?

「ワイも、どこまで貢献できるか・・・」

「貢献しなくてもよい。
任務を達成できれば、よいのだからな」

 俺は、ここで疑問に持つ。
 ヒポポパーラメンスは、いつループしたんだ?

盗賊たちに愛されて 第4話

「気泡爆!」

 どこからか、声が聞こえたと思ったら、泡がレコナイーズめがけて飛んできた。
 だけど、レコナイーズは一瞬でよけては、その泡は岩に当たって消滅した。

「よくも・・・、よくも・・・、バンディッツ様を・・・」

 ステイメンツが現れ、レコナイーズとシーウを睨みつけている。

「何の話なのか、よくわからないのですわ。
あたしが、やったという根拠はあるのですか?」

「この山に来ている見知らぬ者は、熊か君しかいない!」

「では、熊の仕業なのでは?」

「熊が洞窟を崩せるわけがない!」

「さすがは、山賊なのですね。
あまりにも、世間がどのように発展しているから、わかってないですわね」

 明らかに、レコナイーズのやったことでは?
 頑健の魔法で、自分を強化して、洞窟を壊したんじゃないの?

「魔法だけではなく、技術も発展しているのですわ。
それに、熊の生態をご存知なくて?」

「熊の生態?」

「今は、魔法が使える熊もいるのです。
古い伝統にこだわっていると、最新の情報に気付けないのですわよ」

 明らかに、山賊を蔑んでいる様子だった。
 仕方ない、彼女は10人までが与えられる番号まではもらえなくても、山賊退治の中では優秀な成績だったのだから。
 成績順で考えると、11番。
 それなりのプライドがあるのだろう。

「馬鹿にするなあああ!」

 そう叫んでから、ステイメンツは「気泡爆!」と唱え、レコナイーズに当てようとするも、彼女は全部避けてしまった。

 何発も撃っているうちに、それが俺に当たってしまい、俺は倒れた・・・。

 え?
 俺に・・・?

「サラン!」

 ステイメンツの、不安そうな叫び声が聞こえた。

 俺は、意識が朦朧としてきた。
 俺、死んだのかな?

 ここで、ヒポポパーラメンスの声が聞こえた。

「サランよ、またやり直す時が来た」


 俺は、ここで目が冷めた。
 現実ぽっくて、長い夢だったけど、まさか俺が死んでるわけない。

 俺は、サラン・ディスティーノ。
 異世界にやってきたしまったごく普通の一般人。
 この名前も本名ではないけれど、この世界の住人たちに違和感を与えないように名乗っている。
 サランは韓国語で「愛」という意味で、ディスティーノはイタリア語で「運命」という意味となる。
 どうして、このような偽名を?と思う方は、簡単な話だ。
 俺が3つの魔法のうちのひとつである、盗賊を魅了させる魔法を持つからだ。
 
 鉄黒の髪に、黒い瞳
 黒い眼鏡をかけている。
 そして、色黒。
 背は高くもなければ、低くもない。

 深海恐怖症かつ、高所恐怖症だ。
 苦手なものは、海賊や空賊とか山賊とか、盗賊関係だ。

 俺はベッドから起き上がり、部屋を出た。

 俺は監禁されている。
 異世界に来て、すぐに囚われた。
 何が、なんだかよくわからない。

 それぞれの個体には、3つの魔法を与えられるみたいだが、俺が与えられたものは、「盗賊に好かれる魅了の魔法」「水泡の魔法」「逸脱の魔法」というものだった。

 水泡の魔法は、水ぶくれを作るというものだけど、これはイタズラとかを企まない限り、使わない。

 逸脱の魔法は、相手の目的をずらすことができるサポート魔法だ。
 相手の標的を変えたり、盗むものから目線をそらさせるなどができる。

 ちなみに、俺の魔法は戦う上では、役に立たない。
 防御も、回復すらも使えないし、味方がいてもサポートにならない。
 これは、盗賊のみに使える魔法で、それ以外には効果が全くと言っていいほどない。

 空賊退治専門屋、海賊退治専門屋、山賊退治専門屋が話し合い、それぞれに3つの魔法属性を与えることになっていた。

 俺が異世界に来る前は、漆器《しっき》覇業《はぎょう》という、どこにでもいる中学生だった。
 だけど、どういうわけだが、ここに来た。
 きっと、研究員の誰かが、俺を誘拐したのだろう。

 研究員は、探しているみたいだった。
 盗賊たちに、対抗する方法を。

 だけど、その対象が異世界転移した者や、元々この世界にいた子供だったりする。
 子供でも誰でもいいわけではなく、孤児や家庭環境に恵まれなかった子供たちのことをさす。
 その場合なら、赤ちゃんも対象となる。

 俺は、盗賊とやらに対抗できるのだろうか?
 そして、この魅了の魔法が何の役に立つという?
 
 空賊退治専門屋、海賊退治専門屋、山賊退治専門屋、宇宙賊退治専門屋のどちらに、俺は配属されるだろうか?
 どちらにしても、俺は攻撃魔法を一切使えないし、何の専門性もないだろう。

 空賊退治専門屋の所長が、ディベロック・インクリースさん。
 山賊退治専門屋の所長が、プロヴァイト・ベネフィッツさん。
 空賊退治専門屋の所長が、インプルーブ・コンテインさん。
 どちらが、俺に採用してくれるのだろう?
 どうしてそう思うか聞かれても、答えられないけどみんな、評価基準は厳しそうなイメージがある。
 

「サラン・ディスティーノ」

 白衣を着た研究員のひとりであるトゥリッツ・チャレリーさんに呼ばれた。

「はい」

「今から試験を行うが、その内容は理解していか?」

「はい。
山賊退治専門屋か、空賊退治専門屋か、山賊退治専門屋のどちらがふさわしいかですよね?」

「その通りだ。
だが、我々も与えられる魔法は3つだけだから、魅惑と水泡と逸脱というあまり使えないという結果になってしまった。
空を飛べるなら空賊退治とか、泳げるなら海賊退治とか、足が速いなら山賊退治とか分類しやすくなるんだが、こればっかりは適応能力や体の相性もあるからな」

「そもそも、どうしてこんな魔法なんか与えたんですか?」

 戦闘能力さえ高ければ、ラノベみたいな異世界転移の展開が待っていたのに、魅了の魔法で何ができるか想像つかない。

「それも、ひとつの実験なんだ。
ただ戦うだけ、ただ回復するだけだと盗賊も警戒を高め、強くなるだろうし、サポートができるなら、相手を油断させるしかないと思ってな。
恋は盲目ということわざがあるように、自分が好きになった相手は信じやすいということも、証明されている。
それに水泡の魔法は使う機会はなくても、逸脱はターゲットを外すことに役に立つ」

「それは、騙すということですか?」

「その通りだ」

 俺は、とんでもない実験につきあわされているようだ。

「俺は人を騙せるほど、話術もありません。
今すぐというわけではないですが、いずれバレそうじゃないですか?」

「話術なんて、プロ詐欺師なみのことは求めてない。
盗賊側に、適当でいいから好きになってもらうだけでいい。
守ってやらなきゃ、と勘違いでもいい。
油断こそが、目的だからな」
 

 

盗賊たちに愛されて 第3話

 俺は、ヒポポパーラメンスのところへ行こうと手探りで向かったけれど、腕をつかまれてしまった。

「どこへ行こうとしてる?」

「え?」

「ひとりで、何と話してる?」

 暗闇の中でも、俺がどこにいるとかわかる?
 だけど、だとしたら、ヒポポパーラメンスの侵入も気づくはずだ。
 まさか、ヒポポパーラメンスの存在が見えてない?

〈ヒポポパーラメンス、どうゆうことだ?〉

〈どうゆうことって?〉

バンディッツは、ヒポポパーラメンスの存在に気づいてないし、声も聞こえないみたいだ〉

〈妾は、山賊や空賊、海賊には認知できない。
ただ、それだけのことだ〉

〈それだけって・・・?〉

 ヒポポパーラメンスは、何者なんだ?
 ただの小さな空飛ぶカバみたく思っていたけど、考えれば考える程、謎が多い。

「ようわからんけど、どこにも行くなでヤンス」

 俺は、バンディッツに強く腕を握られた。

〈ヒポポパーラメンス〉

 俺は、助けを求めた。

〈そばで見守ってやるから、大丈夫だ〉

 うまく説明できないけど、見捨てられそうな気がするし、助けられるのか?
 ヒポポパーラメンスの魔法は、瞬間移動とテレパシーしか知らない。
 俺を救済してくれる力さえあれば・・・。


バンディッツ様」

 2人の山賊らしき人が声を揃えた。
 多分、姿は見えないけど、洞窟の外で会ったあの二人組だ。

「ご苦労でヤンス、ステイメンツ、プロフェッサー」

 ステイメンツ?
 プロフェッサー?
 そんな名前だったのか?と首をかしげていた。

「紹介しようでヤンス」

 こうして、バンディッツがランプをつけてくれた。
 あるんだったら、最初からつけてくんない?

「こちらが、ステイメンツ・チューズ。
涼風の魔法と、陥没の魔法と、気泡の魔法が使えて、川で魚を取る時に役に立つでヤンス。
得意技は、気泡爆《きほうばく》でヤンス」

「気泡爆・・・?」

 見ると、あのガリ細の俺が「ラベンダーの香りがする」と言ったやつだ。
 ほとんど白に近いけれど、グレーが入っているような白鼠色の髪に、黄緑だけど、それが薄いために若菜色の瞳と思われる。

「こっちが、プロフェッサー・アウォード。
嫌疑の魔法と、窮屈の魔法と、沸騰の魔法が使えるでヤンス」

 ガリ細でもなければ、バンディッツのように太ってない。
 奴は俺から「薔薇の香りがする」と言っていた。

「最後に、オレは逐語訳の魔法と、閑職の魔法と、贈賄の魔法が使えるでヤンス」

 魔法の説明をされても、俺はこの世界に来たばかりで、何もわからない。
 だから、詳しく聞きたいけど、常識的なことも知らないのかと思われたくないから、質問できない。

「君は、名前は何という?
そして、どんな魔法が使える?」

「名前・・・?
魔法・・・?」

「もしかして、捨て子でヤンスか?
そのために、出自や名前がわからないとか?」

「俺は、サラン・ディスティーノ。
魔法は、わからない」

 俺は名前は言い、魔法は言わなかった。
 魅了なんて、俺のプライドが認めない。

「親も知らない感じか?」

「親は、多分知らない・・・」

「多分?」

 バンディッツが眉をひそめた。

「知らない!」

「そんな大きい声、出さなくても聞こえてるでヤンス。
そして、気になったんだが、君からアイビーの匂いがするでヤンス。
これは、香水?」

「アイビー・・・?」

 アイビーの花言葉って、何だっけ?

「そんなことよりもさ、発泡酒飲もうでヤンス」

 山賊たちで、発泡酒を飲もうとしたその時、洞窟が崩れた。

「危ない!」

 バンディッツは俺を庇い、俺の上に乗った。

 

 俺は、なぜか助かった。
 意識もあるし、どこも痛くない。

 何が起こったのかわからなかった。
 何故、突然に洞窟が崩れたんだ?
 地震でも起きたのか?
 だとしたら、大きな揺れがあるはずだけど、そんな様子もなかった。

「ヒポポパーラメンス!」

 俺は、相棒の名前を叫んだ。
 上に乗っているバンディッツは、目を閉じたまま意識もしてなかった。

 俺は、ヒポポパーラメンスに助けを求めることしかできない。
 彼が、下敷きになって意識がないなら、俺はどうしたらいいんだろう?

 俺はバンディッツをよけた。
 体重は普通の成人男性よりあるかもしれないけど、研究所で鍛えた俺の力なら、動かすことぐらいはできると思うけど、抱きかかえたり、引きずって連れて行くことはできなさそう。

 俺は、起き上がった。
 あたりは、崩れた岩?ばかりだ。

 歩きにくいけど、助けを探すしかない。
 だけど、こんな山の中で人がいるなんて思えない。

「久しぶりなのですわね、サラン様」

 声がした方を見上げると、目の前には袴を着ており、ニーハイブーツを履き、翡翠色の瞳と、浅緑の髪をツインテールにした背は高くもなければ低くもない女の子だ。
 少女の近くには、アザラシのぬいぐるみらしきものが飛んでいた。
 だけど、俺は同じ研究所の仲間であるために、知っている。

 彼女の名前は、レコナイーズ・プルーフ
 頑健と逸品と散逸の魔法を使える。

 そして、アザラシの姿をした相棒のシーウ・イクサイメンツ。
 寡占と寡聞と寡少の魔法を持つ。

「どうして、ここにいる?」

「どうしてなのですか?
簡単な話なのですわ。
任務なのですわよ」

「任務・・・?」

「あたしは、山賊退治を与えられたのです。
たしか、君は訓練生なのでした?」

「洞窟が崩れたんだ。
山賊も下敷きになったし、ヒポポパーラメンスもいない!」

「これでいいのです」

「何を言って・・・?」

 レコナイーズは、冷めた表情をしながら話した。

「これでいいのですわ。
山賊の撲滅が目的なのですし、ヒポポパーラメンスは死なないのですわよ」

 山賊のバンディッツは俺を守ってくれて、悪い奴ではなかった。
 それに、ヒポポパーラメンスまで巻き添えをくらっていることも、考えられる。

「死なないって、どうしてそんなことがわかるんだ?」

「ヒポポパーラメンス様は、サラン様の相棒なら・・・」

 そんな話をしているうちに、ヒポポパーラメンスがどこからかやってきた。

「ヒポポパーラメンス!」

 俺は、生きていたんだという嬉しさのあまり叫んでしまった。

「何だ、妾の陰口か?」

「せっかくの感動、台無しにしないでくれない?」