盗賊たちに愛されて 第5話

 ここで、レコナイーズとヒポポパーラメンスの喧嘩する声が聞こえた。

「あたしは、山賊退治をしたいのですわっ!」

「それが、良くないという話だ!
この他人を冷ややかに挑発するところが、山賊退治に採用できんところ。
海賊退治か、空賊退治にしておくんだ」

「あたしは海賊退治や空賊退治の成績は、上から12位しかなくても、山賊退治だけ11位だったのですわよ!」

 ここで、トゥリッツさんが口をはさんだ。
 
「どうしたんだ?」

「あたしは山賊退治になりたいのに、ヒポポパーラメンスがだめって・・・」

「事情は把握してないが、ヒポポパーラメンスが言うなら・・・」

 トゥリッツさんは、考えこみながら話した。

「優秀な君には納得のできないアドバイスになるかもしれないが、山賊退治を候補から外して、宇宙賊を視野に入れるのは、どうか?」

 それを聞いたレコナイーズは、不思議そうな表情をしていた。

「宇宙賊なのですか?」

 宇宙賊とは、エリートだけがなれる宇宙専門の盗賊退治屋。
 
 レコナイーズは、そこまで優秀だったんだ。

「レコナイーズは、我ら研究員の間でも、宇宙賊退治は上位9位となる。
番号はもらえないが、他の退治屋よりも、もっと優秀な成績を残せる。
悪くない話では、ないか?」

「いいのです。
賛成なのですわ」

「その代わり、山賊退治からは採用されなくなるが、レコナイーズならきっと優位に立てると信じてるぞ」

「了解なのです。
では、試験をシーウ様と一緒に受けて来るのですわ」

 こうして、レコナイーズは笑顔で走り去った。

「本題に入るのだが、サランはヒポポパーラメンスとペアで、任務を行う」

 トゥリッツさんが言う、ヒポポパーラメンスと言うカバのぬいぐるみは、初対面のはずだが、なぜか知っている感じがした。
 まるで、夢で見たことが本当の出来事かのように・・・。

「妾は、その提案を辞退させてもらおう」

「何故?」

 トゥリッツさんが眉をひそめた。

「妾に、サランの護衛は務まらん。
そこで、考えた。
安寧秩序、意気消沈、一罰百戒の魔法を持つ方を相棒にするのは、どうか?」

「どうしたんだ、ヒポポパーラメンス。
話し合いにより、君がサランとの魔法相性がいいと言う結果となり、任命したのだ」

 トゥリッツさんはそう言うけど、できれば俺としても他のやつにしてほしい。
 なぜなら、俺はカバが苦手だからだ。
 本物のカバなんて、見てられない。
 それは、俺が漆器《しっき》覇業《はぎょう》として生きていた時からそうだった。

 だから、カバ以外の生物にしてほしくて仕方がない。

 だから、俺はここで願った。
 カバ以外の生物が、相棒になることを。

「理由を聞かせてくれないか?」

「妾の魔法を知っていれば、想像がつくだろう?
ワープ、テレパシー、ループ。
この3つの魔法のみで、妾がサランのためにできることはなかった。
サランの身に、どんな危険があっても、助けられん。
そこで、考えた。
妾の次に数値がいい方を・・・」

「彼が使えるのは、安寧秩序、意気消沈、一罰百戒。
その言葉の意味、わかってるな?」

 俺は四字熟語には詳しくないけど、安寧秩序が平和的な意味で、意気消沈が落ち込むことで、一罰百戒が罰による成敗だっけ?
 そんな意味だったような?

「成績は落ちたとしても、サランの身の安全が優先事項。
妾は、傍観者にしかならん。
ならば、サラン、相棒を紹介したるが、どうだ?」

 ヒポポパーラメンスが俺に問いかけたけど、そんなことはカバから開放されるためには、迷うことじゃない。

「俺に、君たちが言う相棒を見せてくれないか?」

 俺は、トゥリッツさんとヒポポパーラメンスに案内された。
 誰が相棒になるんだろう?

 そして、俺は宙に浮くクジラのぬいぐるみを見た。


「彼の名は、ウェイオ」

 トゥリッツさんが、俺に目を向けながら話した。

「ウェイオ?」

「君の相棒だ。
君との魔法相性は、ヒポポパーラメンスの次にいいとされる」

「ワイをお呼びか?」

 ウェイオと言うクジラのぬいぐるみは、俺たちを見た。

「そして、今回はレコナイーズが山賊退治から外れたために、別の女性を任務に行かせる。
彼女は確か、一網打尽と隠忍自重、雲散霧消という魔法を持つ 

「俺、四字熟語詳しくない・・・」

「後に、彼女と合流することになるか、その時に魔法性質がわかるだろう。
彼女の相棒は、温厚篤実と夏炉冬扇と外柔内剛の魔法だ」

「またしても、四字熟語・・・」

 説明されても、俺はトゥリッツさんに言われてること、半分以上は理解してないと思う。

「ウェイオ、彼はサランだ。
これから、任務に同行だ」

「確か、ヒポポパーラメンスが一緒と聞いたが?」

「彼は、訳ありで辞退した。
代わりに、二番目に優秀なウェイオを選んだ」

「ヒポポパーラメンスは、こんないい機会を何故に自ら逃した?」

 ウェイオは、トゥリッツさんの次はヒポポパーラメンスを見ながら話した。

「それは妾のワープ、テレパシー、ループの魔法から詳しい察してほしい。
妾は、戦闘力もなく、無能なのだ」

 この説明だけで、事情の把握は難しいのでは?

「ワイも、どこまで貢献できるか・・・」

「貢献しなくてもよい。
任務を達成できれば、よいのだからな」

 俺は、ここで疑問に持つ。
 ヒポポパーラメンスは、いつループしたんだ?

盗賊たちに愛されて 第4話

「気泡爆!」

 どこからか、声が聞こえたと思ったら、泡がレコナイーズめがけて飛んできた。
 だけど、レコナイーズは一瞬でよけては、その泡は岩に当たって消滅した。

「よくも・・・、よくも・・・、バンディッツ様を・・・」

 ステイメンツが現れ、レコナイーズとシーウを睨みつけている。

「何の話なのか、よくわからないのですわ。
あたしが、やったという根拠はあるのですか?」

「この山に来ている見知らぬ者は、熊か君しかいない!」

「では、熊の仕業なのでは?」

「熊が洞窟を崩せるわけがない!」

「さすがは、山賊なのですね。
あまりにも、世間がどのように発展しているから、わかってないですわね」

 明らかに、レコナイーズのやったことでは?
 頑健の魔法で、自分を強化して、洞窟を壊したんじゃないの?

「魔法だけではなく、技術も発展しているのですわ。
それに、熊の生態をご存知なくて?」

「熊の生態?」

「今は、魔法が使える熊もいるのです。
古い伝統にこだわっていると、最新の情報に気付けないのですわよ」

 明らかに、山賊を蔑んでいる様子だった。
 仕方ない、彼女は10人までが与えられる番号まではもらえなくても、山賊退治の中では優秀な成績だったのだから。
 成績順で考えると、11番。
 それなりのプライドがあるのだろう。

「馬鹿にするなあああ!」

 そう叫んでから、ステイメンツは「気泡爆!」と唱え、レコナイーズに当てようとするも、彼女は全部避けてしまった。

 何発も撃っているうちに、それが俺に当たってしまい、俺は倒れた・・・。

 え?
 俺に・・・?

「サラン!」

 ステイメンツの、不安そうな叫び声が聞こえた。

 俺は、意識が朦朧としてきた。
 俺、死んだのかな?

 ここで、ヒポポパーラメンスの声が聞こえた。

「サランよ、またやり直す時が来た」


 俺は、ここで目が冷めた。
 現実ぽっくて、長い夢だったけど、まさか俺が死んでるわけない。

 俺は、サラン・ディスティーノ。
 異世界にやってきたしまったごく普通の一般人。
 この名前も本名ではないけれど、この世界の住人たちに違和感を与えないように名乗っている。
 サランは韓国語で「愛」という意味で、ディスティーノはイタリア語で「運命」という意味となる。
 どうして、このような偽名を?と思う方は、簡単な話だ。
 俺が3つの魔法のうちのひとつである、盗賊を魅了させる魔法を持つからだ。
 
 鉄黒の髪に、黒い瞳
 黒い眼鏡をかけている。
 そして、色黒。
 背は高くもなければ、低くもない。

 深海恐怖症かつ、高所恐怖症だ。
 苦手なものは、海賊や空賊とか山賊とか、盗賊関係だ。

 俺はベッドから起き上がり、部屋を出た。

 俺は監禁されている。
 異世界に来て、すぐに囚われた。
 何が、なんだかよくわからない。

 それぞれの個体には、3つの魔法を与えられるみたいだが、俺が与えられたものは、「盗賊に好かれる魅了の魔法」「水泡の魔法」「逸脱の魔法」というものだった。

 水泡の魔法は、水ぶくれを作るというものだけど、これはイタズラとかを企まない限り、使わない。

 逸脱の魔法は、相手の目的をずらすことができるサポート魔法だ。
 相手の標的を変えたり、盗むものから目線をそらさせるなどができる。

 ちなみに、俺の魔法は戦う上では、役に立たない。
 防御も、回復すらも使えないし、味方がいてもサポートにならない。
 これは、盗賊のみに使える魔法で、それ以外には効果が全くと言っていいほどない。

 空賊退治専門屋、海賊退治専門屋、山賊退治専門屋が話し合い、それぞれに3つの魔法属性を与えることになっていた。

 俺が異世界に来る前は、漆器《しっき》覇業《はぎょう》という、どこにでもいる中学生だった。
 だけど、どういうわけだが、ここに来た。
 きっと、研究員の誰かが、俺を誘拐したのだろう。

 研究員は、探しているみたいだった。
 盗賊たちに、対抗する方法を。

 だけど、その対象が異世界転移した者や、元々この世界にいた子供だったりする。
 子供でも誰でもいいわけではなく、孤児や家庭環境に恵まれなかった子供たちのことをさす。
 その場合なら、赤ちゃんも対象となる。

 俺は、盗賊とやらに対抗できるのだろうか?
 そして、この魅了の魔法が何の役に立つという?
 
 空賊退治専門屋、海賊退治専門屋、山賊退治専門屋、宇宙賊退治専門屋のどちらに、俺は配属されるだろうか?
 どちらにしても、俺は攻撃魔法を一切使えないし、何の専門性もないだろう。

 空賊退治専門屋の所長が、ディベロック・インクリースさん。
 山賊退治専門屋の所長が、プロヴァイト・ベネフィッツさん。
 空賊退治専門屋の所長が、インプルーブ・コンテインさん。
 どちらが、俺に採用してくれるのだろう?
 どうしてそう思うか聞かれても、答えられないけどみんな、評価基準は厳しそうなイメージがある。
 

「サラン・ディスティーノ」

 白衣を着た研究員のひとりであるトゥリッツ・チャレリーさんに呼ばれた。

「はい」

「今から試験を行うが、その内容は理解していか?」

「はい。
山賊退治専門屋か、空賊退治専門屋か、山賊退治専門屋のどちらがふさわしいかですよね?」

「その通りだ。
だが、我々も与えられる魔法は3つだけだから、魅惑と水泡と逸脱というあまり使えないという結果になってしまった。
空を飛べるなら空賊退治とか、泳げるなら海賊退治とか、足が速いなら山賊退治とか分類しやすくなるんだが、こればっかりは適応能力や体の相性もあるからな」

「そもそも、どうしてこんな魔法なんか与えたんですか?」

 戦闘能力さえ高ければ、ラノベみたいな異世界転移の展開が待っていたのに、魅了の魔法で何ができるか想像つかない。

「それも、ひとつの実験なんだ。
ただ戦うだけ、ただ回復するだけだと盗賊も警戒を高め、強くなるだろうし、サポートができるなら、相手を油断させるしかないと思ってな。
恋は盲目ということわざがあるように、自分が好きになった相手は信じやすいということも、証明されている。
それに水泡の魔法は使う機会はなくても、逸脱はターゲットを外すことに役に立つ」

「それは、騙すということですか?」

「その通りだ」

 俺は、とんでもない実験につきあわされているようだ。

「俺は人を騙せるほど、話術もありません。
今すぐというわけではないですが、いずれバレそうじゃないですか?」

「話術なんて、プロ詐欺師なみのことは求めてない。
盗賊側に、適当でいいから好きになってもらうだけでいい。
守ってやらなきゃ、と勘違いでもいい。
油断こそが、目的だからな」
 

 

盗賊たちに愛されて 第3話

 俺は、ヒポポパーラメンスのところへ行こうと手探りで向かったけれど、腕をつかまれてしまった。

「どこへ行こうとしてる?」

「え?」

「ひとりで、何と話してる?」

 暗闇の中でも、俺がどこにいるとかわかる?
 だけど、だとしたら、ヒポポパーラメンスの侵入も気づくはずだ。
 まさか、ヒポポパーラメンスの存在が見えてない?

〈ヒポポパーラメンス、どうゆうことだ?〉

〈どうゆうことって?〉

バンディッツは、ヒポポパーラメンスの存在に気づいてないし、声も聞こえないみたいだ〉

〈妾は、山賊や空賊、海賊には認知できない。
ただ、それだけのことだ〉

〈それだけって・・・?〉

 ヒポポパーラメンスは、何者なんだ?
 ただの小さな空飛ぶカバみたく思っていたけど、考えれば考える程、謎が多い。

「ようわからんけど、どこにも行くなでヤンス」

 俺は、バンディッツに強く腕を握られた。

〈ヒポポパーラメンス〉

 俺は、助けを求めた。

〈そばで見守ってやるから、大丈夫だ〉

 うまく説明できないけど、見捨てられそうな気がするし、助けられるのか?
 ヒポポパーラメンスの魔法は、瞬間移動とテレパシーしか知らない。
 俺を救済してくれる力さえあれば・・・。


バンディッツ様」

 2人の山賊らしき人が声を揃えた。
 多分、姿は見えないけど、洞窟の外で会ったあの二人組だ。

「ご苦労でヤンス、ステイメンツ、プロフェッサー」

 ステイメンツ?
 プロフェッサー?
 そんな名前だったのか?と首をかしげていた。

「紹介しようでヤンス」

 こうして、バンディッツがランプをつけてくれた。
 あるんだったら、最初からつけてくんない?

「こちらが、ステイメンツ・チューズ。
涼風の魔法と、陥没の魔法と、気泡の魔法が使えて、川で魚を取る時に役に立つでヤンス。
得意技は、気泡爆《きほうばく》でヤンス」

「気泡爆・・・?」

 見ると、あのガリ細の俺が「ラベンダーの香りがする」と言ったやつだ。
 ほとんど白に近いけれど、グレーが入っているような白鼠色の髪に、黄緑だけど、それが薄いために若菜色の瞳と思われる。

「こっちが、プロフェッサー・アウォード。
嫌疑の魔法と、窮屈の魔法と、沸騰の魔法が使えるでヤンス」

 ガリ細でもなければ、バンディッツのように太ってない。
 奴は俺から「薔薇の香りがする」と言っていた。

「最後に、オレは逐語訳の魔法と、閑職の魔法と、贈賄の魔法が使えるでヤンス」

 魔法の説明をされても、俺はこの世界に来たばかりで、何もわからない。
 だから、詳しく聞きたいけど、常識的なことも知らないのかと思われたくないから、質問できない。

「君は、名前は何という?
そして、どんな魔法が使える?」

「名前・・・?
魔法・・・?」

「もしかして、捨て子でヤンスか?
そのために、出自や名前がわからないとか?」

「俺は、サラン・ディスティーノ。
魔法は、わからない」

 俺は名前は言い、魔法は言わなかった。
 魅了なんて、俺のプライドが認めない。

「親も知らない感じか?」

「親は、多分知らない・・・」

「多分?」

 バンディッツが眉をひそめた。

「知らない!」

「そんな大きい声、出さなくても聞こえてるでヤンス。
そして、気になったんだが、君からアイビーの匂いがするでヤンス。
これは、香水?」

「アイビー・・・?」

 アイビーの花言葉って、何だっけ?

「そんなことよりもさ、発泡酒飲もうでヤンス」

 山賊たちで、発泡酒を飲もうとしたその時、洞窟が崩れた。

「危ない!」

 バンディッツは俺を庇い、俺の上に乗った。

 

 俺は、なぜか助かった。
 意識もあるし、どこも痛くない。

 何が起こったのかわからなかった。
 何故、突然に洞窟が崩れたんだ?
 地震でも起きたのか?
 だとしたら、大きな揺れがあるはずだけど、そんな様子もなかった。

「ヒポポパーラメンス!」

 俺は、相棒の名前を叫んだ。
 上に乗っているバンディッツは、目を閉じたまま意識もしてなかった。

 俺は、ヒポポパーラメンスに助けを求めることしかできない。
 彼が、下敷きになって意識がないなら、俺はどうしたらいいんだろう?

 俺はバンディッツをよけた。
 体重は普通の成人男性よりあるかもしれないけど、研究所で鍛えた俺の力なら、動かすことぐらいはできると思うけど、抱きかかえたり、引きずって連れて行くことはできなさそう。

 俺は、起き上がった。
 あたりは、崩れた岩?ばかりだ。

 歩きにくいけど、助けを探すしかない。
 だけど、こんな山の中で人がいるなんて思えない。

「久しぶりなのですわね、サラン様」

 声がした方を見上げると、目の前には袴を着ており、ニーハイブーツを履き、翡翠色の瞳と、浅緑の髪をツインテールにした背は高くもなければ低くもない女の子だ。
 少女の近くには、アザラシのぬいぐるみらしきものが飛んでいた。
 だけど、俺は同じ研究所の仲間であるために、知っている。

 彼女の名前は、レコナイーズ・プルーフ
 頑健と逸品と散逸の魔法を使える。

 そして、アザラシの姿をした相棒のシーウ・イクサイメンツ。
 寡占と寡聞と寡少の魔法を持つ。

「どうして、ここにいる?」

「どうしてなのですか?
簡単な話なのですわ。
任務なのですわよ」

「任務・・・?」

「あたしは、山賊退治を与えられたのです。
たしか、君は訓練生なのでした?」

「洞窟が崩れたんだ。
山賊も下敷きになったし、ヒポポパーラメンスもいない!」

「これでいいのです」

「何を言って・・・?」

 レコナイーズは、冷めた表情をしながら話した。

「これでいいのですわ。
山賊の撲滅が目的なのですし、ヒポポパーラメンスは死なないのですわよ」

 山賊のバンディッツは俺を守ってくれて、悪い奴ではなかった。
 それに、ヒポポパーラメンスまで巻き添えをくらっていることも、考えられる。

「死なないって、どうしてそんなことがわかるんだ?」

「ヒポポパーラメンス様は、サラン様の相棒なら・・・」

 そんな話をしているうちに、ヒポポパーラメンスがどこからかやってきた。

「ヒポポパーラメンス!」

 俺は、生きていたんだという嬉しさのあまり叫んでしまった。

「何だ、妾の陰口か?」

「せっかくの感動、台無しにしないでくれない?」

盗賊たちに愛されて 第2話

 俺の選んだことじゃない。
 反抗でもしてやろうか?
 
 そんなことを考えていたら、後から誰かに腕をつかまれた。

「えっ?」

 俺は一瞬のことなので、状況が理解できなかった。

「いい匂いでヤンスね~」

 目の前にいたのは、小太りの褐色肌の男だ。

「だ、れ・・・?」

 俺は、そう呟いた。

 一体、何が起こってる?
 俺は、どうして後から男に抱かれてる。
 ただわかることは、魅了の魔法で好かれてしまったということだった。

「俺は、男だ」

 冷静になってから、言い放った。

「わかっているでヤンス。
けど、好きヤンス」

 男が、男に告白!?

「ヒポポパーラメンス、助けてくれ!」

 期待はしてないけど、大声を出した。

 奴は、やっぱり来ない。

「とにかく、一緒に過ごそうでヤンス?
誰もいない場所で?」

「お断りします。
帰ります」

「愛おしいでヤンス。
好きヤンス」

「俺は、そんな気持ち一切ないので、受け取れません」

 男が男に告白とか、信じられない!
 ラノベじゃなくて、これはボーイズラブの展開では?
 これは、抵抗しなくては!
 俺は、男なんだ!
 女と恋愛してこそだから、例外は受け付けない!


 こうして、俺は連れて行かれてしまった。
 どこにかなんて、想像がつくだろう?

 俺は、見知らぬ山賊らしき男に、洞窟へ引き込まれてしまった。

 暗いし、どこに何があるかわからない。
 暗所恐怖症の俺には、幽霊が出てくるとか、襲われるとかを想像させ、身震いするしかなくなる。

「帰りたいんですが・・・」

 俺は、必死に懇願した。

 ヒポポパーラメンスの奴は、どこに行ったんだ?
 俺のこと探してくれているといいんだが・・・。

「無理でヤンス。
オレと、君はこの場所で、共にするしかないんでヤンス」

「そんなあ。
俺はやることがあって、かまっている暇なんてなくて・・・」

「やること?」

「山賊のバンディッツ・エクスポーツの確保です。
指名手配犯なんすよ」

「それなら、オレだが?」

「君が?」

「そうでヤンス。
もしかして、知らないでヤンスか?」

「はい」

 知らない。
 名前は聞いたことあるけど、どのような人とか、外見も何も聞かされていない。

「オレを探してくれてたなんて、嬉しいでヤンス」

「自分の立場がわかっているんですか?
指名手配犯という話をしているんです」

「それでも、オレを探してくれるだけで嬉しいんでヤンス」

「はぁ」

 語尾に「ヤンス」をつけるバンディッツ・エクスポーツは得体のしれない奴だ。

「どうして山賊をやっているのか知らないけど、これ以上の狼藉を重ねるようなら・・・」

「ようなら?」

「何でもないです」

 相手の方が強いだろうと勘付き、恐怖で怖気づいてしまった。
 ヒポポパーラメンス、早く助けに来て~。

 こんなところ、自力でもいいから、抜け出したる!

 力ずくで強制的に連れて行かれたけれど、物理以外の方法がある。

 魅了の魔法を、うまく使った方が、評価成績はいいかもしれないけど、今はそんなこと言ってられない。

 考えろ・・・。
 考えるんだ・・・。

「俺・・・トイレに行きたいんですが、いいですか?」

 何としてでも、ヒポポパーラメンスと合流しないと!

「なら、オレもついて行こうか?」

「え?」

「1人じゃ、心細いのでは?」

 女子か!
 俺は、女子のような扱いか!?
 
 俺は男だし、トイレぐらいは、付き添わなくてもいいって!
 
「俺、トイレの場所がわかればいいので・・・」

「トイレの場所とか、やり方とか一般庶民にはわからないでヤンス。
ここは、山賊流のやり方があるでヤンス」

「山賊流・・・?」

 俺は、危機感しかない。
 これは、明らかに女子で言う、一緒に行こうという流れだ。

 ヒポポパーラメンスに、心の中で必死に助けを求めた。

 ヒポポパーラメンス、助けて・・・。
 ヒポポパーラメンス、助けて・・・。
 俺は、ピンチなんだ。

《大丈夫か?》

 頭の中で、声がした。

《もしかして、ヒポポパーラメンス?》

《そうだ》

 ヒポポパーラメンスにも、3つの魔法があり、その中のひとつが、テレパシーだ。
 直接口にしなくても、心の中だけで会話できる。
 だけど、それには条件があり、それは俺がヒポポパーラメンスを相棒として契約を結んでいることと、相方である俺が何かしらの危機的状況にさらされていることと、ヒポポパーラメンスと俺が同じエリアにいることだ。
 ひとつでも当てはまらないと、テレパシーは使えない。

 テレパシーができるということは、そんな遠くにいないはずだ。

《今すぐ、ワープでこっち来てくれないか?》

 ヒポポパーラメンスのもうひとつの魔法は、「ワープ」という名前の瞬間移動だ。
 正式には、ワープというより、瞬間移動なんだが・・・。
 山賊の山へ来れたのは、ヒポポパーラメンスの魔法だが、発動には条件があり、いつでも使えるわけじゃないし、どこにでも行けるわけじゃない。

 トゥリッツさんひとりだけでやったことではないけど、トゥリッツさんは何を考えてんだか?

〈場所がわかれば。
今、どこにおる?〉

〈多分、山賊の洞窟。
今、山賊のバンディッツ・エクスポーツに捕まってるから〉

〈なら、なんとなく察しがつくな〉

「おーい、サランよ、おるかー?」

 暗闇だから、見えないけど、ヒポポパーラメンスの声が聞こえた。

「いるよー」

 俺は、迷うことなく返事をした。

盗賊たちに愛されて 第1話

 俺は、有名な山賊バンディッツ・エクスポーツを探すことになった。
 海賊や空賊とか、優先順位は決められてないけど、深い海や高い所がこわい俺にとって、山賊の方がまだ、いいかもしれないと思った。
 ただ、熊や狼、山姥とか出なきゃいいけど・・・。
 山賊は洞窟で生活しているというから、余計にこわくて仕方がない。
 
「やっぱ、俺帰っていい?」

 洞窟を前にして、恐怖のあまり引こうと思った。
 ヒポポパーラメンスは、相変わらずの呆れ顔だ。

「今更、何を言うのだ?
山賊退治がいやなら、海賊や空賊でもいいぞ?」

「それは、もっとやだ!」
 
「なら、潔く行く。
これは、任務だからな」

「お化けとか出ない?」

「お化け?
そんな非科学的な生物か、この世に存在するのか?」

「俺から言わして見れば、君の存在や魔法があることも、非科学的だが」

「ここまでくると、貴様は本当に男なのか?」

「魅了の魔法を与えられた時点で、男としての尊厳を失っているわ!
・・・第一、戦闘能力がない段階で、俺はこの世界で弱いということを意味しつないか?」

「貴様の故郷がどういったものか知らんが、そんなことを気にするのか?
強い者が存在すれば、弱い者だって存在する。
弱い存在があれば、強い存在だってある。
これは珍しいことでもなく、自然の摂理だ」

「俺、戦える魔法が欲しかった。
異世界でのチートスキルを身につけることに憧れていたんだが」

「あんな偶然が、何度もあるかっ。
異世界に来たら、みな貴様と対して変わらん。
確率的に低いことばかり求めるな」

 俺の元いた世界のラノベでは、確率が低いとされることさえ当たり前にあったし、何かピンチがあれば主人公補正がきく。
 それが当たり前と思っていた。

「とにかく、行くぞ」

「無理無理!
やっぱ、無理!!」


「外から、なんか声がするぞ?」

「侵入者か?」

 洞窟の中から、次々と声がした。

「バレた!?」

「貴様があれだけ大きな声を出せば、気づかない方が無理があるぞい」

 俺は、自分ではそんなに大きな声を出しているつもりはなかったが、喋っているうちにそうなってしまったみたいだ。

「どこに隠れればいい?」

「知らんよ」

「事前調査とかは?」

「するわけがない」

 俺はあわてて、隠れる場所を探し、洞窟の外にある岩を見つけ、そこに身を潜めた。

「ヒポポパーラメンスも、こっちに」

 俺は小声で呼びかけ、ヒポポパーラメンスを引っ張り、岩に隠れさせた。

「さっきの声は、何だったんだろう?」

「気のせいか?」

「幻聴でも、聞いてたんじゃないか?」

「なんか、匂いがするぞ」

 俺は、すっかり忘れていた。
 盗賊たちから、俺は匂いがすることに。

 海賊からは海の匂い、空賊からは空の匂い、山賊からは花の匂いがするということらしいけど、どういった匂いかは自分でもよく知らないし、盗賊限定ということみたいだ。
 ちなみに、花の匂いは山賊たちが、潜在意識で求めているものによって変わり、どんな花の匂いがするかで、花言葉から潜在意識がわかるということ。

「薔薇の匂いがするぞ」

「ラベンダーの匂いだろ?」

 ラベンダーも、薔薇もいろんな花言葉があるけれど、わかるのは2人の山賊が求めているのは、愛だということがわかる。
 ラベンダーと薔薇の共通点は、ここだから。

 あと、考えられるとしたら、ラベンダーの匂いがすることは、このひとは「幸福」を求めているのかもしれないな。

「どうするのだ?」

 ヒポポパーラメンスに、小声で聞かれた。

「どうすることもできないな。
戦う手段がない、俺にとって」

 今回ばかりは、今回も含めて、匂いがある限り、逃げ場はない。

 だけど、戦うのも無謀・・・。
 考えた末に、俺の出した答えはこれだった。

「やっぱ、この任務・・・放棄していい?」

「棄権は、できぬぞ?」

「ですよね~」

「いたぞ!」

 俺は、2人の山賊に見つかってしまった。

「ここから、ラベンダーの香りが・・・」

「そんな匂いしないって。
薔薇の香りだ!」

 山賊たちが、どんな匂いなのか言い争っているうちに、逃げよう。

 俺は、走ってその場を離れた。

「どこへ向かうのだ?」

 ヒポポパーラメンスは、ついていく。

「考えてないっ!」

 どうしよう?

「侵入者を、どうしたらいい?」

「侵入してないから、いいじゃないか?」

 そんな声が聞こえたけれど、俺は迷わず走り続けた。

 

 ゼエゼエと息をはきながら、見知らぬ森林にたどり着いた。

「ふむ、さっきも言った通り、棄権はできぬ。
任務が達成できるまで、続行だ」

「ワープは?」

「任務達成ができれば、発動する」

「そんなあ」

 走っても走っても、出口が見つからない。
 もしかして、ここは出口なんてないんじゃないかと思うくらいだ。

「任務内容を山賊から変えれば、ワープできるがな。
海賊なら海の上で、空賊なら空あたりかのう?」

「それ、一番危ないやつ」

「任務どうする?
続行するか?
変えるか?」

「帰るにしてください」

「変えるって、どっちに?」

「本部に」

「任務を投げ出すことしか、考えとらんな・・・」
 
 俺が、あんな恐怖でしかないものに挑めるわけがない。
 山賊の頭が、ストーカーじみた思考の持ち主なら、耐えられるわけない。
 
「今回ばかりは、難易度が高い。
俺に戦うための魔法を与えてくれないか?」

「無理だ」

「どうして?」

「人間が適合できるのは、3つまでとなる。
これは、証明されとる。
まあ、生まれつきの魔力には、勝てんがな。
それ以上の実験は、行っとらん」

「よくわからないけど、4つ以上の魔法属性を得られるということは、ないということ?」

「そうゆうことだ」

「諦めるというか、自身の宿命を受け入れるしかないということだ。
所詮は、人間でしかない。
人間が適合できるものは、限られている」

 すんなり、納得できるわけがない。
 魔法属性を選ぶことすらも、なかった。
 ただ、異世界に来て、魔法をランダムで与えられた。
 ただ、それだけだった。
 
「なぜ、最初からちゃんと説明してくれないんだ・・・」

 そんな俺に、ヒポポパーラメンスは、冷たく言い放つ。

「しょうがないんだ。
これが、決まりなんだ。
学校の校則、世界の法律、会社のルールと同じだ。
与えられたことは、こなしていくしかない。
納得いかないから、行動しないなんて思考があるなら、それは反社会的でしかない。
それが常識だ」

盗賊たちに愛されて プロローグ

 俺は、サラン・ディスティーノ。
 異世界にやってきたしまったごく普通の一般人。
 この名前も本名ではないけれど、この世界の住人たちに違和感を与えないように名乗っている。
 サランは韓国語で「愛」という意味で、ディスティーノはイタリア語で「運命」という意味となる。
 どうして、このような偽名を?と思う方は、それは後程知ることになる。
 
 黒い髪に、黒い瞳
 黒い眼鏡をかけている。
 そして、色黒。
 背は高くもなければ、低くもない。

 深海恐怖症かつ、高所恐怖症だ。
 苦手なものは、海賊や空賊とか山賊とか、盗賊関係だ。

 俺は、寝ていた。
 なぜだ?
 俺は監禁されている。

 異世界に来て、すぐに囚われた。

 俺は透明なガラスの中にいて、他の人たちも透明なガラスの中に閉じ込められていた。

 何が、なんだかよくわからない。

 それぞれの個体には、3つの魔法を与えられるみたいだが、俺が与えられたものは、「海賊に好かれる魅了の魔法」「山賊に好かれる魅了の魔法」「空賊に好かれる魅了の魔法」というものだった。
 この魔力は、男女関係なく適用されるらしい。

 ちなみに、俺の魔法は戦う上では、役に立たない。
 防御も、回復すらも使えないし、味方がいてもサポートにならない。
 これは、盗賊のみに使える魔法で、それ以外には効果が全くと言っていいほどない。

 空賊退治専門屋、海賊退治専門屋、山賊退治専門屋が話し合い、それぞれに3つの魔法属性を与えることになっていた。
 
  研究員は、探しているみたいだった。
 盗賊たちに、対抗する方法を。

 だけど、その対象が異世界転移した者や、元々この世界にいた子供だったりする。
 子供でも誰でもいいわけではなく、孤児や家庭環境に恵まれなかった子供たちのことをさす。
 その場合なら、赤ちゃんも対象となる。

 俺は、盗賊とやらに対抗できるのだろうか?
 そして、この魅了の魔法が何の役に立つという?

 空賊退治専門屋、海賊退治専門屋、山賊退治専門屋のどちらに、俺は配属されるだろうか?
 どちらにしても、俺は攻撃魔法を一切使えないし、何の専門性もないだろう。

 空賊退治専門屋の所長が、ディベロック・いんクリースさん。
 山賊退治専門屋の所長が、プロヴァイト・ベネフィッツさん。
 空賊退治専門屋の所長が、インプルーブ・コンテインさん。
 どちらが、俺に採用してくれるのだろう?
 どうしてそう思うか聞かれても、答えられないけどみんな、評価基準は厳しそうなイメージがある。
 

「サラン・ディスティーノ」

 白衣を着た研究員のひとりであるトゥリッツ・チャレリーさんに呼ばれた。

「はい」

「今から試験を行うが、その内容は理解していか?」

「はい。
山賊退治専門屋か、空賊退治専門屋か、山賊退治専門屋のどちらがふさわしいかですよね?」

「その通りだ。
だが、我々も与えられる魔法は3つだけだから、魅惑しか使えないという結果になってしまった。
空を飛べるなら空賊退治とか、泳げるなら海賊退治とか、足が速いなら山賊退治とか分類しやすくなるんだが、こればっかりは適応能力や体の相性もあるからな」

「そもそも、どうして魅了の魔法なんか与えたんですか?」

 戦闘能力さえ高ければ、ラノベみたいな異世界転移の展開が待っていたのに、魅了の魔法で何ができるか想像つかない。

「それも、ひとつの実験なんだ。
ただ戦うだけ、ただ回復するだけだと盗賊も警戒を高め、強くなるだろうし、サポートができるなら、相手を油断させるしかないと思ってな。
恋は盲目ということわざがあるように、自分が好きになった相手は信じやすいということも、証明されている」

「それは、騙すということですか?」

「その通りだ」

 俺は、とんでもない実験につきあわされているようだ。

「俺は人を騙せるほど、話術もありません。
今すぐというわけではないですが、いずれバレそうじゃないですか?」

「話術なんて、詐欺師なみのことは求めてない。
盗賊側に、好きになってもらうだけでいい。
守ってやらなきゃ、と勘違いでもいい。
油断こそが、目的だからな」

 俺は、こうして外の世界に出ることになった。
 1人で任務達成とかできるわけがないので、カバのぬいぐるみをしたサポーターのヒポポパーラメンス・メフェもいる。
 なんかの妖精らしいけど、詳しい話は知らないし、興味もないから研究員に聞いてない。

「やれやれ」

 ヒポポパーラメンスが呆れている様子だったから、俺は皮肉を言ってみった。

「やれやれは、こっちだ。
バカ」

「妾が、いくらカバの姿をしているからって、バカはないだろう?」

「バカの反対は、カバ。
俺の故郷では、それが当たり前の会話だったんだ」

「こっちだって、言いたいことはある」

「言いたいこと?」

「チビ」

 俺はカチンときて、言い返した。

「チビじゃないし、160センチ後半はある!」

「世間では、それをチビと評しないのか?」

「後でどうなるか、覚えとくんだな」

「覚えておく?
それは、妾の台詞だ。
貴様は、これから盗賊退治屋になる任務がある。
それによって、未来が決まるんだ。
妾と口論の余裕があるか?」

 盗賊退治屋・・・。
 俺にできるのか?

 考えてもどうしようもないけど、どう対抗するのか思いつかない。

「俺は、もしかしたら死ぬかもしれない・・・」

 俺は、不安を呟いた。

「殺される、とでも言いたいのか?」

「俺は高所恐怖症だし、閉所恐怖症出し、暗所恐怖症だし、深海恐怖症でもある。
任務達成できそうにない」

「大丈夫だ。
そんな奴こそ、なんだかんだで生き残る」