「スクアーロ、私には勝てないって・・・」
青のオーラをまとい、無傷で炎から登場したカンツウォーネさんを見て、私は勝利を諦めた。
サイコキラーなんてよくわからない。
だけど、今の戦いでカンツウォーネさんが人間ではないことがはっきりした。
これ以上、どうあがけばいいの?
私が騎士の娘であろうと、なかろうと関係ない。
私は生まれた時から、父親でもないし、母親と同じなんかじゃない。
どっちにしても、私は両親なんて知らない。
周囲に背中を押されるがままにやったことなんだ。
「勝敗は決まってない・・・」
「ううん、決まっているの。
カンツウォーネさんは、人間じゃない。
炎の魔法も効かない。
銃もまともに当てられない。
それで無理なら、他に打つ手なしってことじゃない?」
「そうかもしれないけど、武器は?
他にはないの?」
スクアーロは、どうして私に戦わせようとしてばかりなんだろう?
自分でどうにかしないの?
正直、私はうんざりしていたけれど、そこは何も言わないでおこう。
「弓はあるけど、弾丸よりは威力は弱めだろうし、たいして変わらないよ・・・」
「だけど、だけど・・・。
ここで諦めたら、次に誰が犠牲になるか・・・」
「そんなこと言っても、打つ手がないの・・・。
お願い、スクアーロ、わかって・・・?」
これ以上、私に何も期待しないでほしかった。
戦うことなんて、こわい。
カンツウォーネさんから、命を奪われるかもしれない。
死にたくない。
死にたくない。
「はんっ。
打つ手なしっていうことは、諦めたってことだわよね?」
ここで、カンツウォーネさんが私に向けて、蹴りを飛ばしてくるところで、目を閉じた状態で私は身構えた。
・・・あれ?
何もない・・・?
目を開けると、カンツウォーネさんは足を上げるところで止まっているし、スクアーロも動いていない。
「もしかして、時間が止まっている・・・?」
まさか、そんなフィクションみたいなことあるわけない!って言いたいところだけど、何でも起こりそうな気がした。
「赤音ちゃん・・・」
声がした方を振り向くと、紫髪の小さな女の子がいた。
「誰・・・?」
「憶えてない?
紫帆だよ。
小さい頃によく保育園で遊んだ・・・」
「そんなわけない!
紫帆ちゃんはとっくの昔に・・・」
紫帆ちゃんだって思いたいけれど、死んだ人間が現れるわけがない。
「そうだよ。
紫帆は、3歳の頃に生《せい》を失うことになった」
「そしたら今の君は、何なの?
幽霊?
亡霊?
お化け?
死神?
天使?
女神様?」
「紫帆は、紫帆だよ」
目の前で起きていることが、何も理解できなかった。
「紫帆はね、死んだ時に覚醒できるの。
そして、カンツウォーネのことも、
真君のことも、
緑《りょく》ちゃんのことも、
赤音ちゃんのことも、そばでずっと見守っていたの。
ごめんね、うまく言えなくて」
「私は幼馴染と既に疎遠になってしまったの!
君の知っている私じゃない・・・」
「それでも、赤音ちゃんは赤音ちゃんだよ」
「どうして、そんなことが言えるの?」
「紫帆はね、思うんだ。
赤音ちゃんが、こんなの自分じゃないって思っても、
そして、昔と変わってしまうことだって、これからもあるかもしれない。
だけどね、それでも、赤音ちゃんが他の誰かになることなんてない」
ここで、私は涙を流した。
「紫帆ちゃんと、もっと一緒にいたかったよ・・・。
保育園も、
幼稚園も、
小学校も、
生きていられたら、きっと今とは違った人生になれたかもしれない・・・」
私は、本当は誰かに相談したかった。
だけど、どこにも本音を打ち明けられる存在がいなかった。
「紫帆も、もっと生きたかったよ・・・」
紫帆ちゃんも、涙を流していた。
「紫帆が生きていたら、相談役になれたかもしれない・・・。
赤音ちゃんが、苦しくないように、
少しでも心が軽くなるようにアドバイスできたかもしれないのに・・・。
本当に、何もできなくて・・・ごめんなさい・・・」
目の前で泣いてる幼い子供相手に、私はどうしていいかわからなかった。
私は彼女が今も生きていたらと思っていたけど、だけどこの子も辛いんだ。