私立フラゴラ学園〜私だけの運命の王子様〜第1話

「何だったんだろう、あれ・・・」

 私は窓を眺めながら、ぼーと考えこんでいた。
 
 強がってなんてない。
 私は、本音が言えないだけ。
 私は、どうして素直になれないのかな?
 
「また、会えるかな・・・?」

 私には、幼なじみがいた。
 中学生で私に暴走族の彼氏ができたために、友情にヒビが入ってしまったけれど、それでも会いたいし、まだ好きでいる。
 小学校時代に戻りたいと考えることもあった。
 私より背が低いけど、それでも大好きな幼なじみ。

 

 幼なじみの名前は、プリーモアモーレ。
 あまりにも名前が長いので、私は彼を「プリーモ」と呼んでいた。
 私の初恋の人。
 また、会えるかな?

 そんな昔の思い出に浸っていたら、パラブロータスが、私の座っている席まで現れた。

「これ、返す」

 なぜか、ピンクのいちごのヘアピンを机の上に置かれた。

 私は「返してくれてありがとう」という感謝の気持ちよりも先に、「どうして返してくれたのか?」という驚きの方が先だった。

「急にどうしたの?」

「いらないから」

「どうして?」

「どうしても、こうもないの!
いらないものは、いらないの!
わかって?」

 そう怒鳴り声を上げ、パラブロータスは泣きながら、教室を飛び出した。

 怒ってるの?
 泣いてる?
 私は状況がよくわからなくて、困惑していた。

 その様子を見ていた周囲の人たちが唖然とした。

 

 追いかけた方がいい?
 そっとしといた方がいいの?

「パラちゃん!」

 私は、反射的に呼びかけて、廊下まで追いかけてしまった。

 だけど、それがよくなかったみたいだ。

「その名前で呼ばないで!?」

「あんたなんか、大嫌い!!
二度と話しかけて来ないで!?」

 その言葉を残し、去っていった。
 私、何かした・・・?

 パラブロータスが姿を消してから、4人の女子生徒たちが私に話しかけてきた。
 私と同じクラス。
 ルーマちゃん。
 噂を集める情報通だけど、信憑性にかけるものですらも信じる。
 ペッティコレゾは、熱愛話が大好きで、隣の席の男女すらもその対象となる。
 ルモールは、新聞部のためにささいなことも記事にしたがる。
 ゲリュヒトは、短髪で体格がいい噂好きの女の子。

「急にどうしちゃったの?」

 ペッティコレゾが聞いてきた。

「わかんない・・・。
私、何かしちゃったかな?」

「タルギちゃん、あの噂知らないの?」

「噂?」

「パラブロータスちゃんの好きな人が、隣のクラスの、1年4組のプリーモアモーレ君みたいなんだけど、その彼が好きな人はタルギちゃんかもしれないって・・・」

「・・・!?
彼が、あの彼がこの学園の中にいるの?」 
 
 私は、驚きを隠せないでいた。

「私、彼のところに行きたい!
プリーモアモーレは、どこにいるの?」

 

「多分・・・隣のクラス・・・?」

 

 質問に答えたのは、ルーマちゃんだった。

 

 私は、そのまま隣のクラスに向かう。

 私よりも小柄で、臆病な顔つきなのがきっとプリーモだ。

 

 だけど、そんな人が見当たらない。

 

「男の子って、みんな私より背が高いんだ・・・」

 

 私の身長は当時は高かったけれど、あれ以来は151、5センチで止まってしまったんだ。

 最後に伸びたのは、中1の最初らへんだったかな?

 たしか、プリーモは151センチしかなかったはずだけど、さすがにそこで身長が止まるわけないか。

 

「プリーモアモーレは、存在しないのかな?」

 

 私は、そう呟いた。

 いるわけがない。

 どこにもいない。

 

「そうよ。

いないのよ」

 

 後を振り向くと、パラブロータスだった。

 

「いないって?」

 

「プリーモアモーレは、私の婚約者なの」

 

「婚約者って?」

 

 私は、理解が追いつかなかった。

 理解したくない。

 これ以上聞きたくないのに、口が動いてしまう。

 

「親同士が決めたことだけど、パラブロータスとプリーモアモーレは、婚約者です。

幼なじみとか言って、気安く近づかないで?

うちは決めたの。

絶対、プリーモアモーレに好きになった上で、結婚してもらうの」

 

「そんな話、聞いてない・・・」

 

「言う必要なかったからね。

しかも、決まったのは中2の頃で、あんたが暴走族と付き合っていた頃」

 

「どうして、それを?」

 

「とにかく、そうゆうことだから」

 

 私は、失恋したんだ。

 あの時、元彼といた時間を消してしまいたいと考えた。

 

「別れたから、これでいいでしょ・・・?」

 

「別れようが、何しようが決まったものは決まったものだから」

 家に帰ってからは、自分の部屋で私は失恋のあまり泣いていた。

 泣いても、泣いても涙がおさまることはなかった。

 

 私の過去はどうやったって消えないし、私が無鉄砲なのも変わらない。

 

 私は、明るく振る舞っても弱いまま。

 プリーモアモーレの恋は、諦める。

 いつまでも、昔の思い出に浸っていいわけじゃない。

 

「よおし!

新しい恋だ!」

 

 学校、行きたくない。
 パラブロータスに会いたくない。
 プリーモアモーレと顔を合わせたくない。
 
 私は、部屋に引きこもるようになった。

「タルギ、学校は?」

 お母さんが、部屋の外から呼びかける。

「行かない!」

「学校、楽しみにしてたじゃない?
制服が可愛いとか、ジャージがピンクの上にいちごのワンポイントがあるって」

「話が違うって。
私、誰に何言われようと行かないから」

「いじめにあってるの?」

「あってる」

「誰に?」

「学園全体」

 どうせ、私のことを噂しているに決まっている。

「シェンベイ君に聞いた方がいい?」

「聞いても、何もわからない。
女としての苦しみとかなんて、男の子にはわかんないよ!」

「女としての苦しみ・・・?」

「そうだよ。
友情はいつも見せかけで、恋愛しても両思いにならないし、この痛みがわかる?
わからないよね?
だから、私の人生がうまくいかない。
私は、誰を信じていいかわからない・・・。
私が信じなきゃいけない」人も、信じられる人もわからない」

「タルギちゃん・・・」

「お母さん、私の気持ちなんてわからないよ。
なら、ほうっておくしかない」

「タルギちゃんは、お母さんが信じられる?」

「信じらんない。
男の人とうまくいかなくて、お父さんと離婚して」

「なら、信じる人を無理して見つけなくていいじゃない?」

「どうゆうこと?」

「タルギちゃんは、お休みしましょうか」

 お母さんは、私の質問に答えることなく去っていった。

 

 私は、何日も学校を休んだ。

 どうして、お母さんは何も言わないんだろう?

 普通のお母さんなら無理やり学校に行かせたり、不登校なのを罵倒したりとかするのでは?

 

「信じられるもの・・・?」

 

 家族を信じられないのは、おかしいの?

 友達を疑ってばかりでいいの?

 私は、何がしたいの?

 

 私が生まれてきた意味・・・?

 

「にんじん、食べたい」

 

 私はカレーやシチュー、お味噌の中に入ったにんじんが好き。

 そういえば、親の再婚があって以来、食べてないな。