「やだ、やだ、こわい!」
私は、目の前のいちごの姿をしたモンスターに恐怖して、叫ぶ。
「落ち着くんだ。
何が見えているのかわからないけど、幻覚だから」
「幻覚?
君には、何が見えてるの?」
「何も。
目の前には、なにもない廃棄の学校。
そして、パラブロータスたちがいる」
「パラブロータス?」
私はあたりを見回しても、パラブロータスの姿は見えない。
ただ、いちごのモンスターが私とイケメン君を囲っているだけ。
「夢なら覚めて!
夢なら覚めて!」
「落ち着いて、聞いてくれないか?
君は、病気なんだ」
「病気?
病気って?」
「統合失調症って診断されたの覚えてないのか?」
「何それ?」
聞いたことはあるけど、よく知らない名前だ。
どんな症状なんだろう?
「そのせいで記憶を失い、幻覚ばかり見ては、廃校した学校に登校するようになった。
たしか、私立フラゴラ学園かな。
これは、すでに廃校になってるんだ」
「フラゴラ学園が廃校・・・?」
私は、彼の言うことが信じられないでいた。
「プリーモアモーレは、俺の双子の兄だ。
しかも、暴走族をしている。
俺は、すごく悲しかった。
接点のない奴らのことは鮮明に憶えていても、なぜ俺のことを忘れるのかって?
だから、教えてくれ。
どうしたら、君に憶えてもらえる?」
「私は・・・」
私は、彼を知らない。
初対面のはずなのに、どこか懐かしい感じがした。
えっと、誰だろう?
イケメンで高身長な私の幼なじみ。
「アミーコ・・・?」
「やっと思いだしたか。
脳内お花畑」
「脳内いちご畑で〜す」
「また、いちごネタか。
豆腐メンタルのくせに」
「お豆腐じゃないもん。
いちごメンタルだし。
私の心は、いちごのように弱かったりするの」
「やっと素直になったか、タルギ」
「素直になんてならない。
私が心を開くのは、いちごだけ」
「チビで、巨乳になれないくせに?」
「私は身長151、5センチあるので、チビにならない!
それに、巨乳になれないとか決めつけるのよくないっ!
これは、セクハラ発言だから訴えたげる!」
私はAAカップという、いちご6個分の重さがあるバストサイズがある。
だから、貧乳なんかじゃない。
貧乳なのは、AAカップもない胸のこと。
「訴える?
いちごのモンスターという幻覚しか見えないタルギに、誰に訴えると言うんだ?」
感情のままに言ってしまったけど、まだどうにかなる。
「幻覚なんて、根拠あるの?」
「信じてないんだ」
「信じてないよ」
「それなら、そのいちごのモンスターはいつ襲うんだ?」
「それは・・・」
確かに襲わないし、全く動かない。
「このように話していれば、その間に襲われることだってあった。
だけど、そうしない」
「どうして?」
「理由なんて、簡単だ。
君が空想で創り出し、動かせる幻覚だからだ。
これでわかったか?」
「私の幻覚・・・?」
そうだ。
これは、幻覚。
そうに違いない。
そう念じていると、なぜかいちごのモンスターは消えていった。
「いちごのモンスターは?
いない?
どうして?」
不思議そうにする私に、アミーコはめんどくさそうに答えた。
「何度聞いても、変わらない。
君の幻覚だからだ」
いちごのモンスターがいなくなると同時に、目の前には、パラブロータス、ルーマちゃん、ペッティコレゾちゃん、ルモールちゃん、ゲリュヒトちゃんの5人がいた。
「いつの間に・・・」
「はん?
うちは、あんたが嫌い」
パラブロータスが冷たい口調で言い放つ。
「私、嫌われるようなことした?」
「これだから、無神経は嫌なのよね。
うちが、プリーモアモーレの婚約者って知っておきながら、それを忘れて、付き合うなんて・・・」
「ごめん、全然記憶がない・・・」
本当に知らずにそうしたのなら、申し訳無さからない。
「何が統合失調症だ!
何がPTSDだ!
何が多重人格障害だ!
だからって、二股していい理由なんかならない!」
「私はそのことを憶えてないけれど、本当にそうしたのなら、ごめんなさい。
記憶があやふやで、何がなんだかわからなくて・・・」
「わかんない発言は、聞き飽きたの!
どうして、自分だけの楽しい世界を作って、他人を巻き込むの!?」
パラブロータスは、怒ってる。
明らかに激昂している。
確かに、私が逆の立場ならいい気がしない。
アミーコが口をはさんだ。
「精神科医の言うことなんて、関係ない!
どーして、うちの幸せを奪い、プリーモアモーレを浮気体質の男に変えたかって話をしているの!」
「う・・・・」
私は、何も言い返せなかった。
パラブロータスがこわい。
何か言うことで、火に油を注ぐものでしかないという恐怖ばかりが勝ってしまう。
「どちらに非があるにしても、浮気は明らかに兄に原因がある。
タルギの前にも、誰か別の女性と浮気していたらしいし、そこまでくると兄本人の問題だ。
タルギを攻めても、今の事実を、誰かと浮気していることも変わらない。
だから、パラブロータスのやっていることは八つ当たりでしかない」
「何よ!
何も知らないくせに!」
「言いたいことは、それだけか?
タルギは、俺だけの幼なじみで友人だ。
彼女を傷つけるやつは、兄だろうとその婚約者だろうと許す気はない。
だから・・・」
アミーコが最後まで言い終わらないうちに、パラブロータスが激怒した。
「何よ!
うちがどんな思いしてきたか知らないくせに!
双子の弟だかなんだか知らないけど、タルギばっかり!」
「タルギは無自覚かもしれないけど、君のように人を妬んで落とし入れることなんてしない。
10年間を見てきたからこそ、はっきり言える。
わさわざ群れまで作って、相手に不利な状況は作らない。
騙されることはあっても、人を騙すことはしない。
だから、守ってやろうって思えるんだ・・・」
こうして、パラブロータスたちは一斉にその場を去った。
「アミーコ・・・」
私は、いい幼なじみに恵まれていた。
私が助けてほしい時に守ってくれて、廃校した学校に向かってしまう程、重症な私を追ってくれる。
「帰ろうな」
「うん。
アミーコ、ありがとう」
「照れくさいな。
最初から、そうすればいいのにさ」
「何の話かわかんない」