私立フラゴラ学園〜私だけの運命の王子様〜第3話

「やだ、やだ、こわい!」

 私は、目の前のいちごの姿をしたモンスターに恐怖して、叫ぶ。

「落ち着くんだ。
何が見えているのかわからないけど、幻覚だから」

「幻覚?
君には、何が見えてるの?」

「何も。
目の前には、なにもない廃棄の学校。
そして、パラブロータスたちがいる」

「パラブロータス?」

 私はあたりを見回しても、パラブロータスの姿は見えない。
 ただ、いちごのモンスターが私とイケメン君を囲っているだけ。

「夢なら覚めて!
夢なら覚めて!」

「落ち着いて、聞いてくれないか?
君は、病気なんだ」

「病気?
病気って?」

統合失調症って診断されたの覚えてないのか?」

「何それ?」

 聞いたことはあるけど、よく知らない名前だ。
 どんな症状なんだろう?

「そのせいで記憶を失い、幻覚ばかり見ては、廃校した学校に登校するようになった。
たしか、私立フラゴラ学園かな。
これは、すでに廃校になってるんだ」

「フラゴラ学園が廃校・・・?」

 私は、彼の言うことが信じられないでいた。

「プリーモアモーレは、俺の双子の兄だ。
しかも、暴走族をしている。
俺は、すごく悲しかった。
接点のない奴らのことは鮮明に憶えていても、なぜ俺のことを忘れるのかって?
だから、教えてくれ。
どうしたら、君に憶えてもらえる?」

「私は・・・」

 私は、彼を知らない。
 初対面のはずなのに、どこか懐かしい感じがした。

 

 えっと、誰だろう?
 イケメンで高身長な私の幼なじみ。

「アミーコ・・・?」

「やっと思いだしたか。
脳内お花畑」

「脳内いちご畑で〜す」

「また、いちごネタか。
豆腐メンタルのくせに」

「お豆腐じゃないもん。
いちごメンタルだし。
私の心は、いちごのように弱かったりするの」

「やっと素直になったか、タルギ」

「素直になんてならない。
私が心を開くのは、いちごだけ」

「チビで、巨乳になれないくせに?」

「私は身長151、5センチあるので、チビにならない!
それに、巨乳になれないとか決めつけるのよくないっ!
これは、セクハラ発言だから訴えたげる!」

 私はAAカップという、いちご6個分の重さがあるバストサイズがある。
 だから、貧乳なんかじゃない。
 貧乳なのは、AAカップもない胸のこと。

「訴える?
いちごのモンスターという幻覚しか見えないタルギに、誰に訴えると言うんだ?」

 感情のままに言ってしまったけど、まだどうにかなる。

「幻覚なんて、根拠あるの?」

「信じてないんだ」

「信じてないよ」

「それなら、そのいちごのモンスターはいつ襲うんだ?」

「それは・・・」

 確かに襲わないし、全く動かない。

「このように話していれば、その間に襲われることだってあった。
だけど、そうしない」

「どうして?」

「理由なんて、簡単だ。
君が空想で創り出し、動かせる幻覚だからだ。
これでわかったか?」

「私の幻覚・・・?」

 そうだ。
 これは、幻覚。
 そうに違いない。

 そう念じていると、なぜかいちごのモンスターは消えていった。

「いちごのモンスターは?
いない?
どうして?」

 不思議そうにする私に、アミーコはめんどくさそうに答えた。

「何度聞いても、変わらない。
君の幻覚だからだ」

 

 いちごのモンスターがいなくなると同時に、目の前には、パラブロータス、ルーマちゃん、ペッティコレゾちゃん、ルモールちゃん、ゲリュヒトちゃんの5人がいた。

「いつの間に・・・」

「はん?
うちは、あんたが嫌い」

 パラブロータスが冷たい口調で言い放つ。

「私、嫌われるようなことした?」

「これだから、無神経は嫌なのよね。
うちが、プリーモアモーレの婚約者って知っておきながら、それを忘れて、付き合うなんて・・・」

「ごめん、全然記憶がない・・・」

 本当に知らずにそうしたのなら、申し訳無さからない。

「何が統合失調症だ!
何がPTSDだ!
何が多重人格障害だ!
だからって、二股していい理由なんかならない!」

「私はそのことを憶えてないけれど、本当にそうしたのなら、ごめんなさい。
記憶があやふやで、何がなんだかわからなくて・・・」

「わかんない発言は、聞き飽きたの!
どうして、自分だけの楽しい世界を作って、他人を巻き込むの!?」

 パラブロータスは、怒ってる。
 明らかに激昂している。
 確かに、私が逆の立場ならいい気がしない。

「パラブロータスも、精神科医から話を聞いてないのか?」

 アミーコが口をはさんだ。

精神科医の言うことなんて、関係ない!
どーして、うちの幸せを奪い、プリーモアモーレを浮気体質の男に変えたかって話をしているの!」

「う・・・・」

 私は、何も言い返せなかった。
 パラブロータスがこわい。
 何か言うことで、火に油を注ぐものでしかないという恐怖ばかりが勝ってしまう。

「どちらに非があるにしても、浮気は明らかに兄に原因がある。
タルギの前にも、誰か別の女性と浮気していたらしいし、そこまでくると兄本人の問題だ。
タルギを攻めても、今の事実を、誰かと浮気していることも変わらない。
だから、パラブロータスのやっていることは八つ当たりでしかない」

「何よ!
何も知らないくせに!」

「言いたいことは、それだけか?
タルギは、俺だけの幼なじみで友人だ。
彼女を傷つけるやつは、兄だろうとその婚約者だろうと許す気はない。
だから・・・」

 アミーコが最後まで言い終わらないうちに、パラブロータスが激怒した。

「何よ!
うちがどんな思いしてきたか知らないくせに!
双子の弟だかなんだか知らないけど、タルギばっかり!」

「タルギは無自覚かもしれないけど、君のように人を妬んで落とし入れることなんてしない。
10年間を見てきたからこそ、はっきり言える。
わさわざ群れまで作って、相手に不利な状況は作らない。
騙されることはあっても、人を騙すことはしない。
だから、守ってやろうって思えるんだ・・・」

 こうして、パラブロータスたちは一斉にその場を去った。

「アミーコ・・・」

 私は、いい幼なじみに恵まれていた。
 私が助けてほしい時に守ってくれて、廃校した学校に向かってしまう程、重症な私を追ってくれる。

「帰ろうな」

「うん。
アミーコ、ありがとう」

「照れくさいな。
最初から、そうすればいいのにさ」

「何の話かわかんない」